どうやら日本に『哲学ブーム』が到来しているらしい。
【日本人と哲学】
なぜ、ここ数ヶ月の間に哲学への注目度が著しく高まったのだろう。コロナが影響しているのか、日本のテレビで特集があったのか、…分からない。しかし、面白さに気づいてくれる人が増えるのは、非常に嬉しいことである。
哲学と聞くと、難しいイメージを抱かれることが多いが、実際は、ものすごく身近なテーマである。近すぎて見えないほど、日常に、当たり前に存在している。ただ、着目していないだけで、機会があれば誰でもこの『思考』の魅力にハマりうる。
【哲学と教育】
スペイン、イタリア、日本。この3ヶ国の義務教育期間に履修する科目には違いがある。その1つが「哲学」。
スペイン ➡︎ 必須科目
イタリア ➡︎ 選択科目 (かなり稀)
日本 ➡︎ 道徳はあるが哲学はない
日本人は義務教育期間中に『哲学』を学ばない。ついでに言うと『宗教』も学ばない。
私の頭の中では、
倫理 ➡︎ 空中 (人の身長の高さまで)
道徳 ➡︎ 地上
哲学 ➡︎ 地下と宇宙
倫理は、人として守るべき・従うべき道。道徳は、正しく行動するためのルールで、基盤に「善悪の判断」がある。哲学は、この2つとは遥かに次元が違う。道徳と倫理は「教育」の範疇 (教えることが可能な学問) であるが、哲学は「人間の思考」と「言葉」の範囲を限界としている。
倫理や道徳において大切な「善悪」は、国や文化によって変化するが、哲学はいわば人間に共通する「知の美しさ」。
バルセロナ大学に入った当初、スペイン人の教授に「小学校から高校までの間、道徳と倫理は習ったけど、哲学は習っていない」と言うと、かなり驚かれたのを今でも覚えている。
【道徳が哲学になったら】
もし、小学校の授業の道徳が哲学になったら…?
日本の「道徳」では、主に3つのことを学ぶ。
1. 道徳的価値
2. 人間理解 (寛容)
3. 他者理解 (共鳴)
いずれも、自らの経験や考え方を振り返りながら物事を見ていく。教科書を読み、登場人物の気持ちを理解したり、相手の気持ちと自分の気持ちを比較したり、親切や思いやりについて学ぶ。小学校という空間から社会に出た時に、様々な角度から物事を捉えれるように、社会で上手く他人とやっていけるように。1人1人が「自分と違う立場や考え方」を理解しようとするように。
小学校で取り扱う道徳テーマ
1年生: 正直な心「金の斧」
友達を思いやる心
みんなのものを大切に
2年生: 大切な命
相手の気持ちを考える
3年生: 素晴らしい日本の文化
思いやりを大切に「一輪の花」
4年生: 本当の仲間と真の友情
助け合う、共に生きる
5年生: 節度ある生活
相手の立場を考える
6年生: みんなのために自分のために
感謝する心
夢に向かって
自分の良さを生かす
これらは一見、ベクトルが「自己」に向いているかのように見えるが、実は大多数が「他者」に向いている。そこが哲学と大きく異なる点だと感じる。
ではこれを哲学的なテーマに変えるとどうなるか。
1年生: 正直な心 ➡︎ 正直とは?
思いやる心 ➡︎ 思いやりとは?
みんなのものを大切に ➡︎ なぜ?
2年生: 大切な命 ➡︎ 命の価値はどこ?
相手の気持ちを考える ➡︎ 可能?
3年生: 日本の文化 ➡︎ 文化とは?
思いやり ➡︎ 思いやりの要素は?
4年生: 本当の仲間と真の友情 ➡︎ 真とは?
共に生きる ➡︎ 存在するとは?
5年生: 節度ある生活 ➡︎ 中庸とは?
相手の立場を考える ➡︎ 他者とは?
6年生: 皆のために自分のために ➡︎ なぜ?
感謝する心 ➡︎ 感謝とは?
夢に向かって ➡︎ 夢とは?
自分の良さを生かす ➡︎ 自己とは?
日本人は、幼少期の道徳授業のカリキュラムが影響しているからか、与えられたテーマやシチュエーションに感情移入をするのが得意である。だが一方で、「なぜ?」と物事の根本に迫るチャンスを逃している。道徳の授業を受けて、生徒が思考出来る範囲は、過去の自分の経験〜相手の気持ち。
【何が変わるか】
もし、哲学が導入されたら…
・細やかな気配りの精神が薄れそう。
・「個」が強くなり、日本人独特の協調性に欠けそう。
・口数が増えそう。
日本の小学校で習う道徳の授業を、中学高校で習う倫理の授業を、『哲学に変えれば良い』とは思わない。私は、日本人の美徳や、他者への尊重、他者との協調性が好きで、今のままの国民性であって欲しいと思うから。
【スペイン人とイタリア人】
『哲学』を義務教育期間で習うか習わないか。この違いは「人間性」と「思考力」に少なからず影響すると私は考える。スペイン人は、イタリア人よりも、物事を幅広い角度から見ることが出来る。そして、彼らの意見や説得には論理性と一貫性がある。
【哲学っぽい】
日本人は『哲学』を習わない一方で、「哲学っぽい」という言葉を日常的に使っている。見聞きするたびに『その意味 (その人が理解している哲学の要素)』を知りたいと思う。
哲学っぽい歌詞
哲学っぽい独り言
哲学っぽいテーマ
哲学っぽい感じ
【無知を知る学問】
哲学を学び始めて、まず「自分が無知」であることを知った。ソクラテスが唱えた『無知の知』そのもの。クラスメイトと教授と、討論の日々が始まった。
物事の本質は知り得ない?
他者と共有可能?
「痛い」という知覚は、隣の人の「痛い」と同じ?
存在するのかも分からない神を崇める人の多さ。…神の存在証明とは?
認識とは?
人の知識は生まれた瞬間は、白紙?
もし、この世界に偶然など存在せず、全て「必然」であるならば、それは誰がどんな意図で決定している?
自由意志は存在する?
現代社会において多くの人が求める『富・成功・名声』、望み通りそれらを得た時、彼らは満足するのだろうか。私はしないと思う。人間が求める (行き着く) 最終ゴールは、いつの時代も変わらず「幸せ」と「愛」。
【このブームはどうなる?】
続いてほしいが…。一時的なものであると予想する。そう考えるいくつかの要因のうち、2つを簡潔に書き出すと、
①「日本語」は、あまり哲学に適していない言語。(道徳と倫理には適している。)
② この種の「考えること」に慣れていない人が多いため、深堀されにくい。過去の偉大な哲学者たちの「名言」は好まれる傾向にあるが、答えのない問題や課題に向かって行く能力が西洋やアメリカの哲学に追い付かない。
しかし、「あ〜」で終わらせず、面白さをしっかり掴める人が増えれば、ブームは続く。
(例) ニーチェの名言
The future influences the present just as much as the past. (過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える。)
➡︎ 未来が現在に影響を与える?
➡︎ どういうこと?
➡︎ どんな夢を思い描くかによって、今の行いや、努力が変わってくる。
➡︎ つまり…?
【今日の問い】
最後に、哲学的問題を出して終わる。
色を見たことがない人にあなたはどのように「色」を教える?
私は…
…
…
…
感情や感覚で教える。青は悲しい気分になった時の色。緑は森へ行って、綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込んだ時の色。赤は、やる気が出た時の色。もしくは腹が立った時の色。ピンクは誰かを好きになった時の色。黄色は太陽や光が眩しい時の色。黒は目を閉じた時の色。
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