BARCELONANDO :)

1995年香川生まれ岡山育ち。現在ヨーロッパ生活10年目。スペインとイタリアの大学生活・旅行・言語学 (5ヶ国語)・哲学・バルセロナおすすめ情報など、幅広いジャンルの記事を執筆中。

【私の好きな思考実験】面白い哲学的問題TOP10

2015年秋、バルセロナ大学哲学部に入学した。数え切れないほどの哲学的思考実験を学び、考え、あらゆる角度から討論し合った1年目は、哲学入門期だった。今日は、その時期に自分の思考範囲を広げてくれたと感じる【10の実験】を簡単に紹介していく。

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TOP1: テセウスの船 (Paradoja de Teseo)
哲学者: プルタルコス (M. Plutarchus)
年代: 100年頃
関連: 同一性

【要約】テセウスという王が所有している古い木材の船の部品をひとつずつ新しいものに変えていく。全ての部品が新しいものになった時、今の船は「前と同じもの」と言えるのか。もし言えないのであれば、どの段階からそれを同一と見ることが出来ないのか。また、置き換えられた古い部品を集めて、別の船を作った場合、どちらがテセウスの船なのか。

【問題点】これは船だけでなく、様々なものに置き換えて考えることができる。人間の移植手術 (体の部分)、サッカーチーム (選手の移籍)、自動車 (車台番号が刻まれているフレームの交換) など。…同一性とは?

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TOP2: 中国語の部屋 (Habitación China)
哲学者: ジョン・サール (J. Searle)
年代: 1980年
関連: 心の哲学、言語哲学、意味論、人工知能

【要約】中国語を全く知らない英語ネイティブが、ある部屋に入れられている。時々、外部から中国語の質問が投げ入れられる。その部屋の中には、中国語が分からなくても、中国語の文字を書いてある通りに置き換えると、中国語の受け答えが出来てしまう完璧な『ルールブック』がある。だから何も考えていなくても、とりあえず手だけ動かして言語処理を行なっていれば質問に答えられる。中の人は、そのルールブックに従って、意味の分からない漢字をただ並び替え、その結果、正しい中国語の回答が完成した。部屋の外の人たちからすれば「中の人は、中国語を理解している」ように見えるが、実際にはルールに従って並び替えただけであるため、中国語を何一つ理解していない。つまり、中国語の受け答えが出来るだけでは、中国語が分かるとは限らない。

【問題点】チューリングテストに合格しても本当に知識があるかは分からないのでは?「〇〇語会話集」と書かれた本を開き、カタカナを読みながら綺麗な発音でネイティブに質問が出来たとしても、その人は意味論的に言語を理解していないのでは?

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TOP3: 双子地球 (Tierra Gemela)
哲学者: ヒラリー・パトナム (H. Putnam)
年代: 1975-1980年
関連: 言語哲学、外在主義的意味論

「言葉の意味は頭の中にあるのか?」という質問に対し、パトナムは「いや、意味は言葉の外側に存在する」と答える。「意味は頭の中にあるだけではない」と。…そこで次のような思考実験を提示した。(ちなみにTOP2で挙げた哲学者サールは、パトナムのこの主張を批判している。)

【要約】広い銀河系のどこかに私たちが住むこの地球とそっくりの、双子地球と呼ばれる惑星があるとする。双子地球とこの地球の唯一の違いは、湖や川や海を満たす水が、地球の《H2O》ではなく、《XYZ》という何か他の物質であるという点だ。XYZは、無色透明で、H2Oのような味がし、海を満たし、雨として空から降る。見た目においては完全にH2Oと一致する。全く同じ役割を持ち、同じように使われているのにも関わらず、地球人が「水」という語を使う時、その語は、双子地球人が使う語の「水」とは違う意味となる。物理的に区別がつかない二つの星の言語と、頭の中 (心的内容) は同じであるのに、その内容が指し示す意味が異なる。= 私たちは頭の中にあるものだけで意味を決定することはできない。意味は人の頭の中にあるだけではない。

【問題】真逆の考え方をするサールは、次のようにパトナムを批判した。「地球における水の機能を有していれば、元素記号がXYZであったとしても、それは水なのだ。水という言葉の意味の決定は話者の心に依存している。水=H2Oというのは、自分の外の世界に依存している。」

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TOP4: 洞窟の比喩 (Mito de la caverna)
哲学者: プラトン (Platón)
年代: 紀元前428-347年頃
関連: イデア論

【要約】洞窟に住む人々 (囚人) は、子供の頃から手足も首も縛られており、身動きが取れず、ずっと洞窟の奥を (前を) 見ながら生きている。後ろの上の方には火がともっているが、誰も振り返れない。壁には火に照らされた操り人形、動物、物の影が投影されているため、彼らが見ているモノは「実体」の「影」に過ぎないのだが、それを見ながら毎日生活しているため、全員それを本物 (実体) だと思い込んでいる。『影こそがこの世の真実である』と。ある日、そのうちのひとりが縄をほどかれ、背後の火を見るように強制されるが、今までずっと影ばかりを見ていたため、目がくらみ、何も見えない状態になり、苦痛を感じ始める。耐えられず、踵を返し、自分にとって見やすい影をまた見続けようとする。そこで、その人を無理やり洞窟の外に連れ出し、火のさらに向こうの世界 (太陽がある世界) に連れて行った。…またしても眩し過ぎて何も見えない状態であったが、徐々に目を慣らしていくことにした。水面に映る太陽の光を見て、夜の星を見て…。そして、最後には太陽自体を見ることに成功する。その「太陽の光」を知って初めて今まで自分が見ていたものが単なる「影」であったことを悟り、これを知らない他の人たちを可哀想だと思い始める。洞窟に戻り、自らの体験を語ろうするが…いくら伝えようとしても笑われ、聞く耳を持たれない…。

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【問題】このストーリに登場する、太陽・影・影を見ながら生きる囚人・火・外の世界・洞窟の中の世界などは、全て何かの「比喩」になっている。それぞれが何を意味しているか、太陽を直接見た囚人は誰なのか、…これに気づけば面白さが倍増する。

 

TOP5: トロッコ問題 (Dilema del tranvía)
哲学者: フィリッパ・フット (P. Foot)
年代: 1967年
関連: 倫理学、功利主義、道徳心理学、神経倫理学

【要約】線路を走っていたトロッコの制御が出来なくなってしまい、このままでは前方で作業を行なっていた5人が猛スピードのトロッコに轢かれ、命を落としてしまう。たまたまそこを通りかかったあなたは、トロッコの進行方向を変えることの出来るレバーを今なら引くことが出来る。進路を切り替えれば、5人を確実に助けることができるが、別路線で作業を行なっていた1人が確実に亡くなってしまう。レバーを引くか、引かないか。

【問題】もし、その《1人》が自分の家族であったなら…答えは変わってくるのだろうか。命の重さはみんな同じであるはずなのに、なぜ変わるのか。(他にも様々なパターンがある。)

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TOP6: メアリーの部屋 (Cuarto de Mary)
哲学者: フランク・ジャクソン (F. Jackson)
年代: 1982-1986年
関連: クオリア、性質二元論、知識論法

【要約】白黒の部屋の中で生まれ育ったメアリーという女性がいる。メアリーはこの部屋から一歩も外に出たことがなく、生まれて一度も「色」を見たことがない。普段は、白黒の本を読みながら知識を増やし、白黒のテレビを見ながら世界で今起こっている出来事を学んでいる。色を見たことはないが、視覚の神経生理学については世界トップレベルの専門知識を持っている。光の特性、眼球の構造としくみ、人がどういう場面で「赤い」という言葉を使い、どういう時に「青い」という言葉を使うのか、など。知らないことはないと言えるレベルの『視覚に関する物理的な知識』を全て有している。そんなメアリーが、この白黒の部屋の外から出ると、どうなるだろう。生まれて初めて色を見た時、そこに新しい発見や学びはあるのだろうか。

【問題】メアリーは外の世界を見た時、新しく何かを学ぶか?という問いの答えがもし『YES』であるのなら、物理的な情報や知識は、この世界に関する万物を学ぶのに十分ではない。= 物理主義は間違いである。

もし何か新しいことを学ぶとすれば、クオリアが存在する。(クオリアは、自分の心の動きや状態によって知ることの出来る感覚を意味する。分かりやすく言うと、いちごのあの赤い感じ。夏の入道雲のあの感じ。二日酔いで頭が痛むあの感じ。というような...「感じ」という客観的に知ることができない現象のこと。) 

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TOP7: 水槽の脳 (Cerebro en una cubeta)
哲学者: ヒラリー・パトナム (H. Putnam)
年代: 1982年
関連: 認識論、懐疑主義

【要約】「あなたが体験しているこの世界は、実は水槽に浮かんだ脳が見ている夢なのではないか」という説。この文字を読んでいる今、この瞬間も、あなたは生まれた時から続く夢を見続けているのではないか?どのように反証する?

【問題】自分はもしかすると仮想現実の世界にいるのかもしれない。明日、目覚めてコンピューターと繋がった頭部のコードを抜くかもしれない。しかし、コードを抜いても「夢から覚めた」ことにはならない。電極を抜いている自分もまた『仮想現実 (夢)』かもしれない。= 結局、人間は何が本当の世界なのか知る手段を持っていない。というのが、この実験のポイント。デスカルテス (デカルト) の「我思う、ゆえに我在り」とリンクする。

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TOP8: 床屋のパラドックス (Paradoja del barbero)
哲学者: ラッセル (B. Russell)
年代: 1901-1902年
関連: 数理論理学

【要約】ある村に唯一いる床屋さんは、自分で髭を剃らない人たち全員の髭を剃り、それ以外の人の髭は剃らない。ここで問題。この床屋さん自身の髭を剃るのは誰?

【問題】
(a) もし床屋さんが自分の髭を剃らないのならば、彼は「自分で剃らない人」に当てはまるので、自分で剃らなくてはいけなくなり、矛盾が生じる。

(b) もし床屋さんが自分の髭を剃るのなら「自分で髭を剃らない人全員の髭を剃る」というルールに矛盾する。

➡︎ どちらにせよ矛盾が生まれる。

 

TOP9: ヴァイオリニスト (El violinista)
哲学者: ジュディス・トムソン (J. Thomson)
年代: 1971年
関連: 法哲学、倫理学、形而上学

【要約】ある日、目を覚ますと病院のベッドの上にいた。ふと横に目をやると、ヴァイオリンを持った男性が苦しそうな表情で寝ているのが見えた。手元に違和感を感じ、視線を下ろすと、自分と彼には、同じ輸血チューブが繋がっていることを発見する。看護師さん曰く、隣にいる男性は超有名なヴァイオリニストで、必ず命を救わなければならないほど、偉大な人物らしい。しかし、残念ながら9ヶ月後には亡くなってしまう。どんなに頑張っても9ヶ月しか彼の命を繋いでおくことが出来ない。ぴったり合う血のタイプの人間が自分しかいなかったため、意識を失わされ、誘拐され、ここに連れて来られたと聞いたあなたの頭の中は「???」ハテナでいっぱいになっている。チューブを取りはずそうと、引っ張っていると看護師さんから『それを外した瞬間、彼は死んでしまいます。そうなると、あなたが彼を殺したことになりますよ。』と言われ、その手を止めてしまう。9ヶ月我慢すれば健康な状態であなたは家に帰れる。

【問題】ヴァイオリニストの命と、あなたの自己決定権、どちらがより重要なのか?(これを妊娠と中絶に置き換えるパターンもある。胎児の生存権と妊婦さんの自己決定権。)

TOP10: 囚人のジレンマ (Dilema del prisionero)
哲学者: アルバート・タッカー (A. Tucker)
年代: 1950年
関連: ゲーム理論、政治哲学、経済学、社会心理学

【要約】共同で犯罪を行なった囚人AとBを自白させるため、検事はその2人に次のような話をもちかけた。

・本当ならどちらも懲役5年だが、2人ともが黙秘した場合、証拠不十分となるため両方が懲役2年になる。

・もし片方だけが自白したら、その場でそいつは解放する。その時、黙秘していた方には懲役10年を課す。

・2人とも自白したら判決通り、懲役5年ずつ。

AとBは、別々の部屋に隔離されているため、一切相談することは出来ない。

【ポイント】個人が自分の利益のみを第一に考え、選択し続ける限り、チーム (社会全体) の利益は生まれない。そして、結果的に両方が「裏切る」ようになってしまう。

⬇︎ 懲役の期間は、教授やサイトによってまちまち。

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