BARCELONANDO :)

1995年香川生まれ岡山育ち。現在ヨーロッパ生活10年目。スペインとイタリアの大学生活・旅行・言語学 (5ヶ国語)・哲学・バルセロナおすすめ情報など、幅広いジャンルの記事を執筆中。

【高校生と哲学問題】熊本県立第二高等学校にて第2回講演会を行いました。

2022年02月18日(金)
熊本県立第二高等学校理数科1年生の希望者を対象にした100分の講演会をオンラインでさせていただきました。『今も議論が続く哲学問題を共に考え、哲学を体験する』というのが今回の最大の目的でした。

最初のテーマ「色」では、「色」に関する哲学的思考問題 (メアリーの部屋) の応用として、

「数学」のイメージカラーは?

と、質問を投げかけました。

すると「青」という答えが最も多かったです。

私も数学と青色を結びつけます。

では、「なぜその色をイメージするようになったのか?」

『数学の教科書が青色だったからかな?』『時間割を自分で書く時に青色を使って数学と書いていたからかな?』

各々の答えは何通りかに分かれました。

それもそのはず。

全員同じ中学校出身というわけでも、同じ先生から数学を学んだというわけでもないので、それぞれが異なる経験をしてきています。

では…

校長先生のイメージカラーは?

次に、第二高校の「校長先生」について聞いてみました。

同じ日に同じ高校に入学し、校長先生を知り、何度か全校集会等でお話を伺い、校内で挨拶をする機会があり…。全員同じ条件下です。

全く同じ条件下であれば、全員が同じ色を連想するのか?もし異なるのであれば、なぜ異なるのか?

結果、「校長先生」に対するイメージカラーは、先ほどの「数学」よりも回答にバラつきが見られました。

バラつきの理由として考えられるのは、「色」が個人的な経験であるということです。『同じ対象を見ていたとしても主観的な感覚によって色は異なる』と、哲学者の間では議論されています。

ここで関連づけられるのが、私が最も好きな哲学者ヴィトゲンシュタインによって提唱された『箱の中のカブトムシ』という思考実験です。

【どんな説か?】自分の考えていること、気持ち、感情、感覚を言葉で表しても、それらは本質的に自分にしか知り得ないもので、自分以外の相手に100%の何かを伝えることは出来ない、という説。

【要約】全員が「カブトムシ」の入った箱を持っており、全員「カブトムシ」という単語を知っています。それぞれが自分の箱の中身を「カブトムシ」だと思っていますが、全員同じものが入っているとは限りません。隣の人の箱の中身は空っぽという可能性もあります。しかし、お互いが中身を確認出来ない以上、「カブトムシ」という言葉が意味する対象はそれぞれ異なっているかもしれません。私が思っている「カブトムシ」は、他人の「カブトムシ」とは全く異なるものかもしれません。

この説に関連づけ、次は『逆転クオリア』という思考実験を楽しみました。

私が見ている「赤」と他人が見ている「赤」は同じなのでしょうか?

この日は、『逆転クオリア』に加え、同一性の問題である『テセウスの船』、倫理哲学を代表する思考実験『トロッコ問題』、そして最後に懐疑主義の代表『水槽の脳』と、デカルトの名言『我思う、故に我あり』について一緒に考えました。

私がスペインで哲学に触れ、最も難しいと感じたことは、『出された問題や理論について瞬時に考え、自分なりの意見を述べる』という...一見簡単そうに思えるこの一連の頭の働きでした。

日本式の授業 (頭の使い方) とスペイン式の授業の相違点を例えるなら、

日本式
1授業 (40-60分): 1つのテーマについてとにかく深く考える。授業の最初に哲学者の思考解説がある。
→ 輪郭がある状態で絵を描いていく感じ。

スペイン式
1授業 (40-60分): 1つの主テーマに関連づけられる全ての理論や説を習い、短時間 (1-2分) で自分なりの考えをまとめる。そして多くの時間を他者との意見交換に費やす。そして最後にまとめとして有名な哲学者はこう説いた、と (参考程度) 解説を聞く。
→ 輪郭がない状態で内側から絵を書いていく感じ。

個人的に、私たち日本人は答えがないことに対して独自の解答を作り、論じることを不得意とする傾向があると思います。

私もバルセロナ大学でトレーニングを積むまでは『パッと複数の視点から1点を見ること』を苦手としていました。考えることは出来ても上手く言語化出来なかったり、そもそも何も思いつかなかったり、わざわざ他人と共有するほどの知識ではないと消極的に捉えてしまったり…。

今回はそんな日本人の傾向を少しでも緩和するため、哲学することに慣れるため、あえて問題提起後は考える時間をあまり取らず (1分ほど)、順番にランダムで生徒さんの意見を聞いていきました。高校1年生にとっては、かなり難しい設定だったと思います。

しかし、どんなテーマに対しても1人1人がきちんと考えてくださり、同じ意見が出ることなく、それぞれの考えた結論を楽しくみんなで共有出来たことが何より良かったです。

【参加者のご感想】
熊本県立第二高等学校のホームページに掲載されていた感想をシェアさせていただきます。

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今回のてつがくカフェを通して、(哲学に)最初に触れるならばこういう風に色んな人と一緒にワイワイ話しながらやっていくのが楽しいし、興味を持ってくれるのかなと思いました。

実際、質問されることはどれもめちゃくちゃ難しくて、頭を抱えたくなるような感じだったけど、そうやって考え続けるのも楽しかったし、何より自分以外の人の考えを聞くのは「そんな考え方もあるのか!」と自分には思いつかないような考え方を取り込むことができて、とても面白かったです。個人的に印象に残ったのが「知の行き届く範囲は人によって違うから、もしかしたら自分たちでも、誰にも考えつかないことを考え付くかもしれない。」という言葉です。「誰かにしか考えつかない考え方」が存在するんだなぁ、と少し嬉しくなりました。

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デカルトの「我思う、故に我あり。」という言葉がとても心に残りました。水槽の脳という言葉も初めて聞いたし、自分が今生きている世界は、現実ではないと思ったこともなかったので、想像を膨らませて考えることが本当に楽しかったです。前から哲学に興味を持っていました。しかし、哲学は難しそうで、何から学び始めればいいのかわからなくてなかなか手を付けられずにいたのですが、今回みんなで哲学について学んでみて、心から参加してよかったと思いました。他の人と意見を交換することで、自分が予想もしていなかった考えや新しい見方を知ることができました。

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人によって経験や知識が異なるから、考え方が違うことを知りました。いろんな考えがあることって素敵だなと思いました。難しかったけど、他の哲学的思考実験もやってみたいです。これから様々な経験をして、自分の意見をきちんと持ち、発言できるようになりたいと思いました。

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自分は機能主義と呼ばれる立場であったことに気づき、感動した。同じ考えにたどりつく人が何人もいるということから、そこになにかありそうだという期待を感じる。疑問に思っていることを考え続けることで、今回のような感動を得られると思うので、その気持ちを大切にしていこうと思います

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この日の100分を通して、『知』を深める楽しさと難しさを同時に感じてくださったのではないかと思います。

しっかり思考出来るようになる高校生という良い時期に哲学を知ることで、1つの物事に対して深く考える楽しさや、他者との対話から生まれる興味、より広い世界の見方 (見解) が出来る人間になれると改めて感じた1日でした。

第2回講演会のご依頼をくださった美千子先生、ありがとうございました。

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