BARCELONANDO :)

1995年香川生まれ岡山育ち。現在ヨーロッパ生活11年目。スペインとイタリアの大学生活・旅行・言語学 (5ヶ国語)・哲学・バルセロナおすすめ情報など、幅広いジャンルの記事を執筆中。

【バイリンガル国家】カタルーニャ語話者が持つアイデンティティ

スペインのカタルーニャ語話者は自分のことをスペイン人だと思っているのか?カタルーニャ人だと思っているのか?それとも両方である認識なのか?

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【カタルーニャ語とは】
ラテン語から生まれた言語で、スペインの公用語のひとつ。主にカタルーニャ州で話されているが、バレンシア、バレアレス諸島、イタリアの一部地域、フランスのルシヨンにも話者を持つ他、アンドラ (ピレネー山脈の麓にあるフランスとスペインに挟まれている小さな独立公国) の公用語になっている。

『カタルーニャ独立運動』というワードをニュースで見て、聞き覚えがある人も多いだろう。

バルセロナには、自分のことをスペイン人ではなく『カタルーニャ人』だと認識している人がいる。実際に私の友達にも数名、カタルーニャ推しの子がいる。彼氏はスペイン語を、彼女はカタルーニャ語を話すスペイン人同士のカップルや夫婦を3組知っている。

友達同士ならまだ分かるが、なぜ、カップルや夫婦という関係性になってもどちらかがどちらかの言語に合わせないのだろう?どうしてカタルーニャ語が母語の彼女の言語を別の州出身の彼氏は習得しようとしないのだろう?

2014年3月末からバルセロナで暮らし始め、大学ではカタルーニャ語漬けの日々を送り、徐々にその答えを感じ取れるようになってきた。

カタルーニャ語は、決してスペイン語の『方言』ではない。しかし、言語ではなく、アイデンティティという観点から見ると、私たち日本人が持つ『〇〇弁』と近いものがある。東京以外の都道府県出身の人なら、必ず分かる、あの感覚である。

【方言とアイデンティティ】
様々な研究から第一言語 (母語) は、自己のアイデンティティを形成するのに大きな影響を及ぼすことが分かっている。

地元の友達や家族と方言で会話をすると、敬語や標準語を話す時よりも『心地良さ』を感じる。時に『自分らしさ』を感じる。

標準語も方言も同じ日本語であるがゆえ、100%に近いほぼ全ての語彙や表現は言い換えることが出来る。

方言で用いる方が本当に言いたいことを相手に伝えられる気がするのは、第一言語と心がリンクしているからだと思う。

同じ方言を使って話したり、県は少し遠くても似た方言を使って話していると親近感が湧き、お互いの心理的距離が縮まることもある。

地元が大好きな人にとってその方言は、自分がその土地で生まれ育ってきたことを示すアイデンティティである。自分の一部、生きてきた証、思い出、温かさ、土地と自分が重なった歴史。

やはり言語はすごい力を持っている。

【カタルーニャ人?スペイン人?】
では、カタルーニャの人たちは自らをどう認識しているのだろうか?スペイン人?カタルーニャ人? 

 

 

アンケート調査 (2021年2月) によると、自分のことを『カタルーニャ人』だと思っている人は、全体の21%だった。カタルーニャに住む5人に1人は、誰かに「何人?」と聞かれた時、頭に「(自分は) スペイン人」と浮かばないらしい。「どちらかと言えば、カタルーニャ人かな」と答えた人は21%、「カタルーニャ人でもありスペイン人でもある」と答えた人は46%、「どちらかと言えば、スペイン人かな」「スペイン人」という回答はそれぞれ僅か4%だった。

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2019年6月3日-25日にかけて1200人を対象に行われたアンケート調査でも、41.2%の人が「スペイン語よりカタルーニャ語にアイデンティティを感じる」と回答している。

【カタルーニャの日常言語】
日常でよく話している言語は「スペイン語」と答えた15歳以上は48.6%で、「カタルーニャ語」は少し下回る36.1%だった。中には両方を同じくらい使っている人もいる。

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カタルーニャでは、就学前教育 (小学校に入る前の保育園や幼稚園) で『スペイン語』を習う時間はゼロと言われている。小学校に上がると、週に平均2時間の『国語 (スペイン語)』の授業がある。中高になると週3時間に増えるものの、非常に少ない印象を受ける。やはり、カタルーニャ州の教育においてカタルーニャ語は大きな存在となっている。

【カタルーニャ語を話し続ける理由】
冒頭に書いた「彼氏はスペイン語で、彼女はカタルーニャ語でコミュニケーションを取っているカップル」の話に戻るが、この2人の選択 (言語を統一しない) は、日本人と英語圏のカップルがお互いの共通言語で話すか、どちらかがどちらかの言語に合わせるかを選択するパターンといくつかの点において相違するが、主なポイントは、

全く似ていない単語や表現が存在するとしても、日本語の異なる方言を話す2人が分かり合えるのと同じで、無理に合わせる必要がない点である。

お互いがお互いの好きな言語、より自分らしさを表現出来る言語を話していても意思疎通が可能である。

その上、一緒に長い時間を過ごしていると気づくが、日常生活の中で使う語彙の範囲は決まっている。枠の中で会話をしている感じ。その人がよく使う単語がある。仮に、ある単語が自分の方言とかけ離れていても、一度意味を聞いて覚えれば、二回目以降すんなりと理解出来る。

つまり、カタルーニャ人が学校や街でカタルーニャ語を好んで話すのは、「スペイン語 (スペイン) が嫌い!」「自分はスペイン人ではない!」「カタルーニャ語以外は受け付けない!」というアピールではなく、単に、自分の心の拠り所となっている言葉を使っているだけである。私はバルセロナに来た当初、カタルーニャ語がバリアのように、壁のように見えていたが、自分自身が日本の方言 (讃岐弁) を好む感覚と同じだと言うことに気づいてからは、捉え方や感じ方が変わった。カタルーニャ語が耳障りではなくなった。

 

 

【おまけ】フランス語とカタルーニャ語
85%の単語は全く同じ意味であると言われている。だからフランス人は、カタルーニャ語の習得がスペイン人よりも早い。フランス語話者とカタルーニャ語話者は、お互いの言語を学んだことがない状態でも、意思の疎通が出来る。この二言語間には、語彙と、文法 (統語論) の共通点が非常に多いため容易に「話す」「理解する」コミュニケーションが取れる。スペイン語にはない文法 (例: 代名詞 en/hi) が、フランス語とカタルーニャ語にはある。

「私は〜が好き」
スペ: Me gusta (メグスタ)
カタ: M'agrada (マグラーダ)
フラ: J'aime (ジェム)

「私は話している」
スペ: Estoy hablando (エストイアブランド)
カタ: Estic parlant (エスティックパルラン)
フラ: Je parle (ジュパルレ)

【カタルーニャ語が話せる5メリット】
① フランス語とイタリア語の習得が早くなる他、例え話せないとしても、それらの言語で書かれている本やサイトを読んで理解することが出来るようになる。= 得られる情報量が更に多くなる。

フランス語⇆カタルーニャ語⇆イタリア語

② カタルーニャ出身の人からとても愛される。特に年配の方と円滑なコミュニケーションが取れるようになる。他に日頃の生活の中で役立つと感じる場面は、広告、食品表示、標識、看板、ニュース。

③ バルセロナの大学で学ぶ際、カタルーニャ語が出来ると「教授の選択肢」が増える。文系の学部は特にカタルーニャ語でしか授業をしない教授が多い。(教授によって話す言語が異なり、毎年授業登録時に選択しなければならない。)

④ カタルーニャ語で書かれた本を原文で読める。カタルーニャには知識人や有名な教授が多く、カタルーニャ語で書かれた素晴らしい作品や論文の数に驚く。

⑤ 就職やビジネスの場面で機会が増える。カタルーニャ語はカタルーニャだけで話されている言語ではない。世界で88番目に話されている言語で、話者数 (学習者を含まない) は、910万人。

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何より…

"El saber no ocupa lugar."

「知識は場所を取らない。」

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