BARCELONANDO :)

1995年香川生まれ岡山育ち。現在ヨーロッパ生活10年目。スペインとイタリアの大学生活・旅行・言語学 (5ヶ国語)・哲学・バルセロナおすすめ情報など、幅広いジャンルの記事を執筆中。

【日本語の文構造】スペイン人が「結局何が言いたいの?」となる理由

スペイン語では、自分の言いたい内容をシンプル且つダイレクトに言わないと正しく相手に伝わらない。

今日は、それが顕著に現れる興味深い出来事があった。

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【料理学校での出来事】
弟が秋から通うバルセロナの某専門学校へ一緒に入学許可書を取りに行った。

私たちはスペインの料理学校がどのようなシステムなのか、よく理解しきっていなかった。学費に制服のお金が含まれていることは聞いていたが、あとの道具や衣服はどこまで含まれているのか知らなかった。

包丁は、当日までに指定のものを用意するのかな?料理人たちは自分の包丁にこだわるから各々が持参出来るんじゃないかな?

弟のスペイン語レベルは、B2.2 (上級に限りなく近い中上級レベル)。もう十分、ネイティブと普通のスピードで意思疎通が出来る。自分の考えや質問もしっかり伝えることが出来る。万が一、分からないことがあった時のために私は付き添っていた。

証明書を受け取り、学校を出る前、弟が事務員さんに包丁に関して次のような質問をした。

「すみません、包丁についてお伺いしたいのですが。僕は日本で買った和包丁をスペインに持って来ていて、普段はそれを使用しています。こちらの学校で学ぶ際には、別に買い直す必要があるのでしょうか?」

スペイン人の女性は、弟が言いたい内容を正しく理解出来なかった。私は、弟が言いたい内容を事前に知っていたが、スペイン語を隣で聞きながら「ん?」となった。この文の構造では、意図と異なる解釈をされるだろうと懸念した。

弟は、文章の最後に大事な内容を持ってきた。日本語の構造と同じように。

しかし、上の伝え方をすると、スペイン人には次のように聞こえる。

『僕は日本からわざわざ自前の包丁を持って来ているから (こだわりがあるから)、授業でも自分のを使いたい。もう持っているのに、どうしても買い直さなくてはならないのか?』

なぜ、こう聞こえるのか?

その主な理由は、

・スペイン語と日本語の文の構造の違い
・会話のメインとなる箇所 (意識の焦点) の違い

では、どのような文の置き方やアプローチの仕方で話を進めていたら正しく理解してもらえていたか。

 

【解決策①】よりシンプルな文章で話をする。

「すみません、包丁についてお伺いしたいのですが。こちらの学校で学ぶ際には、自分の包丁とは別に、新しい指定のブランドのものを買い直す必要があるのでしょうか?」

スペイン人はストレートに伝えたいことを伝える。スペイン語では、話のメインを文頭に置く。それゆえ『日本から持ってきた』『自分の』『和』という形容詞や、『普段からそれを使っている』というプラスアルファの情報を付け加えると、それらをトクベツな情報 (あえて言うくらい重要な内容) と捉えてしまう。そちらに意識が行ってしまう。

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上の図は、数日前に似た疑問を抱いた際のメモ。頭の中。

会話中、無意識的ではあるが、人はどこに意識を置きながら聞いているのか。スペイン語話者と日本語話者の文の構造と意識の違い…。最近とても気になっている。

閑話休題。

【解決策②】よりストレートに質問をする。

「すみません、包丁についてお伺いしたいのですが。学費の中に包丁のお金も含まれていますか?」

最初の弟の文章と比較すると、かなりの情報量がカットされている。しかし、スペイン人と話す時はこれで良い。これ以上の情報を文章に含みたいのであれば、この後に持ってくるべきである。

「すみません、包丁についてお伺いしたいのですが。学費の中に包丁のお金も含まれていますか?実は、日本から自分の包丁を持ってきておりまして…」

日本語ネイティブの私たちからすると、やや単刀直入かもしれない。何かを聞く前の『前置き』や枕詞がない。なぜその質問がしたいのかの説明もない。

「こうこうこういう理由で、それを教えていただきたいのですが…。」

「…という訳で、僕が本日お伺いしたい内容は…。」

スペイン人が、文と文を繋ぐ時に "porque (なぜなら)" や、"lo que pasa es que (それが実は)" を多用していると感じる理由は、まさに修飾語や特別な情報の位置の違い (有無) である。

大人数で会話をしている時、発言の途中で話者が変わることがあるが、『相手が話し終わるのを待たずに横入り』は、いかなる場面もマイナスになるわけではない。文頭のみでお互い会話が出来ている (相手の言いたいことを汲み取れている) 国や文化も存在する。

【日本風フォロー】
料理学校の話に戻る。

スペイン人女性 (事務員さん) は、弟の言葉を聞いた後、

『自分の包丁を使いたい気持ちは本当によく分かります。しかし、生徒さんには全く同じブランド、モデル、サイズの包丁を使うように指示していますので、本当に申し訳ないのですが…。』

と、お詫びを述べた後、理解を求めた。

それを聞いた弟は、

「はい、それは理解しています。ただ、僕は自分が日本から持ってきている包丁を授業で使えるのか、それとも包丁を自分で買わないとダメなのかが知りたかっただけです。」

話が思う方向に進んでいなかったことを伝えた。しかし、これも日本風だった。彼のスペイン語の文法は100%合っていたのにも関わらず、またしても上手く伝わらなかった。

【不味かった点】
"Sí, lo entiendo. Pero yo solo quería saber si..." の、"Pero (でも)" だ。理解出来た (元から出来ていた) のであれば、繰り返してもう一度言う必要がない。

もう一度言うことによって、スペイン人は、 理解していないと感じる。なぜなら、多くのネイティブは、"Sí, lo entiendo. (はい、僕はそれを理解しています。)" または "No, no lo entiendo." (いえ、理解出来ません。) で話を完結させるから。

❌ 〇〇だと思っていましたが、理解出来ました。

⭕️ 理解出来ました。

この場面の "Pero" には、「理解しているけど、でも…」の不服なニュアンスが含まれる。

では、思い違いをされにくい返答の仕方 (話の持って行き方) は…?

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私なら、"Sí, lo entiendo." 以上の内容を口にしない。だが、どうしても「自分が言いたかった内容はそうではない。違う風に取られてしまっていたんだ。」という弁解を後付けしたい場合は、"Pero" という中性的な (Sí/Noではないという意味で) 単語を用いず、要点を突いて「私が言いたかったのは〇〇ではない。」と言う:

, lo entiendo. No estaba preguntando si podía traerlos o no. Sino, quería saber si los cuchillos también estaban incluidos en el precio del curso. Pero ahora sí, todo está claro. Muchas gracias.

(はい、それに関しては理解しています。私は包丁を持参可能なのかを聞いていたのではなく、包丁が学費に含まれているのかを聞いていたのです。しかし、もう全て鮮明に理解出来たので大丈夫です。ありがとうございました。)

日本人に対して「私はそれを聞いていたのではない」ときっぱり言うと、失礼な印象を与えてしまうだろうが、スペイン人と話す上では普通である。すんなり『あ、そうなの?だったら良かった!』と言ってくれ、誤解なくやりとりが進む。

文頭に《メインの情報!》という意識の焦点が当たる。

「結局何が言いたいの?」となる理由は、私たちの言葉が不明瞭だからだろう。白黒をはっきりさせたいスペイン人に対して自分の考えや、伝えたい内容を述べる場面では、遠回しな表現を避けた "Sí o No" がちょうど良い。

スペイン人はたくさん話す上、文章の中に含まれている情報量も多い。しかし、重要と感じる『情報の種類』が私たちと違う。

…と、2人で文化の違い・文の構造の違いをしみじみ話しながら歩いた帰り道。

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【もう1つ気になった点】
日本人は、最後まで相手の話を聞くのに慣れている。相手の意見に同意出来なくても、明らかな勘違いを分かっていても、とりあえず最後まで聞く。それから訂正したり、言葉を補ったりする。しかし、スペインでは、誤解が分かった時点で早めに切り替えた方が良い。

"No, perdón. No te estoy diciendo eso."
(ごめん、そう言ってるわけじゃないんだ。)

"No. No es así."
(違う、そうではなくて。)

現に、女性のお詫びと説明に対して『いや…』と言うことなく、頷きながら聞いていると、徐々に雲行きが怪しくなり…。「先生にも一応、包丁について確認してみましょう。」と、奥に連れて行かれ、相当、和包丁にこだわりを持っている新入生のような雰囲気になってしまった。ただ、軽い確認をしたかっただけなのに。

 

【終わりに】
以前にも記事 (【会話力は文頭で決まる】効率よく学ぶスペイン語 ㉓) の中で『文章の順番の大切さ』に触れたことがあったが、今回の件を通して一層、自分の中にある何かが明確になった。

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でも、もっとよく考えたい。

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