スペインへ渡ろう!と考えている方々から「スペイン語の良い勉強方法を教えて下さい」というメッセージを貰うことが非常に多いのだが、実はこれは私にとって最も答えにくい質問である。なぜなら、本当に心から『留学前にスペイン語を学ぶ必要はない』と思っているから。(* でも流石にそうとは言えないので、高校時代に私が唯一していたキクタンをどの方にも勧めてはいる。)
今日は、その理由と実体験を3つ書く。
(高2の夏の写真)
① 心理状態
言語は、必要性を本気で感じた時、驚くほど伸びる。例えば、言葉が通じず「やばい」と焦った時、「あの人ともっと話したい」と思った時、「この言語が出来ないと何も始まらない」と感じた時など。心理状態がいかに関係しているか、最近もそれを証明する出来事があった。
このセメスターから知識ゼロ、イメージゼロで、いきなり始まったルーマニア語の授業。先生はネイティブ。授業中、必ず当てられ、発言さされる。教科書を読んでと言われることもある。「やばい!」と、急いで脳みそフル回転で、やたら数が多い冠詞と、名詞の性に関するページに目を通す。と、同時に先生の声と教科書の文字を被せ、正しい発音が出来るように、カタカナでとりあえずメモを取る。そうすれば、間に合わせの、なんちゃって「喋れる状態」になる。これを2時間繰り返す。それだけで最初の自己紹介と超簡単な質疑応答には答えれるレベルになる。日本語のカタカナは素晴らしい。発音が完璧に書ける。『ルーマニア語が理解出来ている』と勘違いされるほど。先生は嬉しそうに私に何か言ってくる。多分褒められている。でも、分からないからとりあえず笑っておく。すると「やばい」は「あの人ともっと話したい」に姿を変える。そうすればこっちの勝ち。ここまで到達すればあとは伸びる一方。この何気ない気持ち、実はとんでもなくすごい力を持っている。
私の英語もスペイン語もカタルーニャ語もイタリア語も、全て、未知の言語に対する焦りが『あの人ともっと話したい』に変わり、急激に伸びた。短期間で。
カタルーニャ語は、下の記事に書いたが、カタカナを繰り返して身についた。文法書を買うことも、ネットを見ることも、語学コースに通うこともなく、地道に手探りで学んだ言語。
② 現地に着いた時の吸収力
スペイン語の予備知識がある人と、全くのゼロの状態の人が、同時に現地に到着したとする。私は後者が早く言語を習得できると思っている。予備知識ゼロの、いわば白紙状態の方が、現地での吸収力がすごい。例えるなら、塾に通っている高校生と、通っていない高校生。今日学ぶ内容をすでに塾で聞いたことがあった子は「あ〜これか。この前やったな。」と少し余裕を感じる。「まあ分からなかってもまた塾で聞けばいいや。」くらいでいる。それに対し、授業だけで勉強をしている子は「何これ!」という真新しさから入り、自分以外が理解出来ていることに焦りを覚え、先生の言葉によーく耳を傾ける。集中する。言語もこれと同じ。何も知らない状態で行った方が「学ぶこと」に対して素直に向き合える。
③ 日本の3時間は現地の3分
現地での吸収力と集中力には驚かされる。日本で参考書を片手に独学で学ぶ3時間は、こちらの3分。7年前、スペイン人を目の前に、ちょっと待ってもらって、辞書を引いて知った単語は今でも全てハッキリ覚えている。自分にとっての教科書は「初めて」教えてくれた人。その人のイントネーション、アクセント、言い回しをそっくりそのまま受け継ぐ。朝の挨拶、作ってもらった手料理の名前、お礼の言い方、喜びの表現、嫌なものを見た時の第一声。小難しい病気の名前でも、ドアノブというマイナーな単語であっても、思い出と共に、あの日の会話がしっかり脳裏に残っている。①の心理状態で学んだ単語はそう簡単に頭から抜けることはない。私が話すスペイン語はこれまでに出会ったスペイン語ネイティブたちとのアルバム。
いずれも重要なのは「現地で」感じること。生きた外国語は、絶対に日本では学べない。そう思ってスペインへ渡り5年半。数え切れない経験をしてきた今でも、その考えは変わっていない。テストや資格に合格するために勉強する「語学」の伸びが悪いのは、当たり前。言語を良い形で習得するには、異国の地での喜怒哀楽がとても大切だから。
【じゃあ留学前は何をすれば】
英語の勉強はしておいた方が良い。あとは、家族と過ごす時間を大切にする、高校の勉強を頑張る、部活動に精を出す、友達としっかり遊ぶ、好きな場所へ行く。など、スペインに行って出来なくなることを「今」楽しんでおくこと。予備知識より、日本での楽しい思い出をいっぱい持ってスペインへ渡る方がずっと良い。留学中、それらが心の拠り所の1つとなるから。
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