BARCELONANDO :)

1995年香川生まれ岡山育ち。現在ヨーロッパ生活10年目。スペインとイタリアの大学生活・旅行・言語学 (5ヶ国語)・哲学・バルセロナおすすめ情報など、幅広いジャンルの記事を執筆中。

【結果: 日本語ってすごい】2019年2月に発表された人類言語学の論文について

2019年2月4日「各言語の語順は話者の記憶力に影響を与える」という研究論文をライプツィヒ (ドイツ) の人類言語学研究チーム (代表: Federica Amici氏) が発表した。これは、従来の「言語」と「思考」の関係についての仮説をより明確にするために行われたもの。

簡潔に研究内容と結果を説明すると…

【研究内容】
研究グループは世界を旅し、実際に異なる8の文化と言語から「言語の語順」と「話者の記憶力」の関係性を調査した。その際、24歳から30歳の成人男女を対象に記憶力と脳への刺激を測るテストを6種類以上実施した。コンピューターでのテストが行われた会場は全員がリラックスして行える場所であった。(学校、自宅、ホールなど)

対象となった8の言語は、
・ンドンガ語 (ナミビアやアンゴラで話される)
・クメール語 (カンボジア語のこと)
・タイ語
・イタリア語
・シダモ語 (エチオピア南部で話される)
・ナマ語 (ナミビア、ボツワナ、南アフリカ)
・韓国語
・日本語

色分けについては次の項目で。

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【右わかれと左わかれ】
言語の大きく2パターンに分けられる;
Right-branching (RB) 右岐れ
= 文の主要部 (動詞) が文頭にくる
ほとんどの言語はこれ
Left-branching (LB) 左岐れ
= 文の主要部 (動詞) が文末にくる
日本語はこれの代表、他にはトルコ語がある

言語学の世界で、なぜ言語を右岐れ左岐れと呼ぶか。それは文の中の単語を分析して構造を見る作業 (統語論) で図を書いた時に、動詞を中心に単語が枝分かれしていくのだが (この形容詞はこの単語を修飾して、この単語はさらに次のこれを〜…と。) 日本語は動詞が文末なのでそこから左に、多言語は動詞が文頭なのでそこから右に (文末の方へ向かって) 線が増えるからだ。↓ 下の写真はスペイン大学入試前のもの

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世界の言語の5分の4は、SVO形 (主語ー動詞ー目的語)SOV形 (主語ー目的語ー動詞)である。SVO形の典型的な例はスペイン語やイタリア語、日本語は動詞が文の終わりにくるのでSOV形

【学者たちの主張: 研究前】
・主語が最後にくる言語は曖昧だ!
= 話者は最後まで文章の大事な部分が分からないから前半の内容を記憶しておかなければならない。
・主語が最初にくる言語は明確だ!
= 最初に文の核がわかるから話者の主張を短時間で理解出来る。

【結論: 研究後】
日本語話者と韓国語話者は前半部分だけでなく後半部分まで細かく記憶できていることが他言語話者との比較で明らかになった。そして記憶力の高さは日本語と韓国語の語順が影響している、と合併調査からも裏付けられたよう。一方で、日本と韓国は被験者の多くが学生でコンピューターテストに慣れていた、南アフリカやその他の発展途上国にはまだ技術が浸透してないから…。とも書かれている。

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この研究論文のオリジナルが読みたい人は次のリンクからネイチャーのページへ。The word order of languages predicts native speakers’ working memory | Scientific Reports

スペイン語で簡潔にまとめてある文章はコチラ!日本語の記事はまだ見当たらなかった。

 

【読後に思ったこと】
① まず、言語比較をする上で代表とも言える8ヶ国のうちに日本語と韓国語、両方を入れたのは、ナンセンスだと思った。右岐れの言語にスペイン語とイタリア語が入ってるようなもの (その二言語は起源も文構造も現代の技術進歩も「ほぼ一緒」) だから。
② スペインで言語哲学、イタリアで言語学の授業を受けていると、たびたび「日本語は語順が我々の言語と違う」「考え方も真逆だ!有から無が生まれると考える西洋に対して、日本は無から有と考えるんだ!」と注目されているが、その違いから生まれる思考・記憶力の差にフォーカスを当てたことがなかったから新鮮だった。
③ 結果やデータを見る限り、日本・韓国・イタリア・タイ以外の4言語のネイティブは「記憶能力」が低いが、これは言語の構造うんぬんより『教育の発達』と『テクノロジーの発達』が要因では?と気になった。でも、教育とテクノロジーの均衡が世界で取れてない時代で「平等に」言語構造が及ぼす影響をはかるのは難しい。
④ 今日に至るまで日本語の研究はもう既に数え切れないほどの人が行っている。これからは外国語との比較を深めていく時代だろう。特に西洋の言語と。

〜日本語と韓国語について〜
日本語と韓国語は (特に日本語は) スペイン語やイタリア語のように起源 (ラテン語) がハッキリしていないが、タミル語系とアイヌ語のあたりからきた説、と古代朝鮮語の慶尚道方言説が有力だろう。しかし、文学・言語哲学の視点から見ると、この二ヶ国語間には、ラテン語を起源とするスペイン語ーイタリア語のような相対性はないと感じる。なぜなら、

・日本語の一人称の多さは世界一 (例: 私、俺、僕、あたし、うち、おいら、わい、わたくし…等)

語尾の種類とそれぞれが与える印象は独特のもの (例: だわ、だよ、だぜ、だい、です、ですわ、ですよ、ですもの…等)

・日本と韓国の古典文学を比較するなら、そこに「共通」を見つけるのが難しい。そもそも韓国には『俳句や和歌のように文字制限があるなかで「心の落ち着き」を求める』流行りが当時無かった。(ハングルの前には漢字を使用していたから漢詩はある。)

・日本語は世界的に見ても数少ない「開音節言語」だが韓国語は英語と同じ「閉音節言語」で語末に子音のみの発音 (パッチム) がくることがある。しかも子音+母音+子音なことが多い。(日本語は母音+子音が多い。)

【おまけ】〜日本語とイタリア語〜
イタリア語が私たち日本人にとって心地よく聞こえる理由は、同じ「開音節言語 (母音で終わる)」であるからだ。(多くの話者をもつ言語はほとんどが閉音節言語。)

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