スペインで生活を始めて間もない頃、語学学校の授業を受けながら次のような疑問を持っていた。
① なぜスペイン語には自分の感情が入らないんだろう?
② スペイン人以外とスペイン語で話す時、文法的ミスがあっても会話が完璧に成り立つのはなぜ?
③ 外国人同士で話す時の方が気楽な理由は?
④ 自分にとって「話しやすいスペイン人」と「話しにくい (思うように口から言葉が出なくなる) スペイン人」がいるのはなぜだろう?
⑤ 文法的ミスは母語とスペイン語の文法の差 (違い) から生まれるのかな?
最近、言語習得理論と外国語教授法の勉強をしながら「今なら過去の自分が抱いていたあの疑問に答えれるかも」と思ったので記事を1本書いてみる。
【① 言語に感情が入るまで】
スペイン生活3年目あたりから日本語を話してる時と同じくらいスペイン語に感情が入るようになった。語力がC1 (上級) に達したからと言ってすぐに入るものじゃなかった。だから『言語に感情移入』と『言語レベルの高低』は、あまり関係がないのだろう。
その言語を通して幾度となく喜怒哀楽を経験をする方がはるかに大切だった。現に、普段辛いことなんか無かったから「哀」のみがスペイン語を話す上では欠けてた気がする。(= 1番時間がかかった。)
【②③ 外国人同士で話す方が気楽なこと】
会話の中で文法や発音が少し違っていたり、ある表現の多用があっても、同じ目標言語をもつ2人の間には中間言語 (インターリングア) が存在するため、会話が十分成立する。心の片隅に「ミスしてもいい!伝わる!」という余裕が芽生えるため、比較的リラックスして気楽に会話ができる傾向にある。
⚠️ 中間言語は言語体系をもっていることから単なる「間違い」ではないと最近では言われるようになってきた。
【④ 話しやすい人と話しにくい人】
大人になればなるほど、年齢があがればあがるほど「話しやすい人と話しにくい人」が出てきやすい。これは外国語を習得する際の心理的現象から生まれる。
大人は子供より『焦り』を多く持っている。
ネイティブと会話をしている時に、一度でも自分の発した言葉に「ん?それどういう意味?」「ちょっとそのスペイン語わからない」「ごめん、理解出来ない」と言われると無意識に『文法的ミスをした』『自分の言葉が通じてない』と一気に焦りを感じる。
だから、
私たちが「話しやすい」と感じるネイティブを思い浮かべると全員に共通するのは、
・自分が文法ミスをしてしまっても指摘することなく言いたいことを汲み取って理解しようとしてくれる
・わかりにくい表現をしてしまった場合でも「それって〜ってことだよね〜」と言い換えて流してくれる
だと思う。つまり、『リラックスして話せる相手、ミスを気にせずに話せる相手=話しやすい人』である。
〜関連〜
アメリカの言語学者 Krashen (クラッシェン) の立てた5つの仮説のうちの1つ、情意フィルター仮説によると「不安」や「自信のなさ」といったマイナスな感情的要因が言語取得能力を低下させてしまうのだそう。
【⑤ 文法的ミスはどこから来るのか】
イタリアの大学で言語学を学ぶまでは知らなかったが、なんと、外国人話者がするミスの原因を追求しようとする学問が存在した。第二言語習得理論の中にある誤用分析。
・外国人が外国語Xを話している時にする文法的ミス
・母語話者も偶発的にしてしまう言い間違えのミス
"上の2つのミスの違いと要因" について知りたい人はイギリスの応用言語学者 Pit Corder が1967年に発表した "The Significance of Learner's Errors" (論文) を読むのが良い。彼のした主張は『ミスはその話者の母語の干渉ではない』だった。
ここで関連づけられるのは、かの有名な Chomsky が提唱した「変成生成文法」と「言語運用」。彼は、『人間の中には生まれながらに「言語特性 (普遍文法)」と「言語獲得装置」が内在している。そのおかげで、どの言語環境に生まれても子供はその環境で話されている言語を話せるようになるのだ。(母語が何語でも生後5,6年で子供は流暢に自分の母語を話せるようになる。)』と、主張をした人。
前者の「外国人がある外国語を話している時に起こるミス」は、母語の影響を受けていないという説が現在では有力と言われている。実際につい先日、色々な外国人が書いたイタリア語の文章を比較した。
・アメリカで育ち、第一言語は英語、両親は中国人の女の子
・イタリア語が第二外国語のロシア人の女の子
・第一言語が中国語な男の子
・イタリア語を第三言語とするインド人の女の子
・アフリカに住む第一言語がアラビア語の男の子
というように、それぞれ異なる環境にいる「イタリア語学習者」の書いた自己紹介文から文法的ミスを分析した。
母語に関係なく (第一言語が英語でも、アラビア語でも、中国語でも、日本語でも、ポーランド語でも…) ミスには、共通点が多いということがよく分かった。
・冠詞の欠如
・単語の性が統一されていない
・動詞の活用の誤り
・助動詞の使い方のミス
・時制をよく理解できていない
・名詞が複数形か単数かよくわからない
・前置詞のミス
このような誤用は、次の4パターンに分けられる。
① 第一言語 (母語) が影響してるエラー
② 母語を習得する過程にもあった類似エラー
③ 母語干渉なのか第一言語習得過程でのエラーに似ているのか判別がつかないエラー
④ 母語が何語であっても第二言語学習者に共通して見られるエラー
ここまで読むと「…で、ミスを探してどうするの?なんのために?」と思う人がいるだろう。これは第二言語習得理論の一部で、今後の外国語教授法へ大きな影響を出すと言われている。つまり『ミス分析からより良い外国語の教え方を見つけよう!』とする分野。
言語習得理論や外国語教授法に興味がある人は併せて、
Skinner
Broomfield
Fries
Lado
Selinker
Skehan
この6人の学者の論文や本を。
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