スペインの語学学校のクラスにイタリア人がいた経験がある人はきっと "さすがイタリア人、来たばっかりなのにスペイン語ペラペラ!でもなんでこんなに話せるのにもっと上のクラスじゃないの?"…と思ったことがあるだろう。
【前書き】
片方の言語がわかる人がもう片方を聞くと「ほぼ一緒じゃん!なんとなくわかる、簡単!」と言う。が、それは表面的な印象に過ぎない。
『日本語からスペイン語』あるいは『日本語からイタリア語』を学ぶのと比較すると『スペイン語⇆イタリア語』は、確かに基礎 (基盤) が似ているから理解はしやすいものの…"簡単" ではない。
前回は、私 (日本人) から見た二言語の違いを載せたので、
今日は、イタリア人の視点から分析する。(スペイン言語学&翻訳学を専攻するイタリア人大学生たちが日頃ぶつかっている壁をヒントに。)
【その①】
SUBJUNTIVO (スペイン語の接続法)
イタリア語にも接続法はある、でも使い方が全然違う。スペイン語のような頻度で会話に出てこないし、時制の複雑な組み合わせもない。だからイタリア人は正しくスペイン語の接続法が使えるようになるまで相当時間がかかる。壁というか、もはや山。
【その②】
(ほぼ)同じ表記&発音だが意味が違う名詞
🇮🇹carta=🇪🇸papel, tarjeta de crédito o de visita
🇪🇸carta=🇮🇹lettera
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🇮🇹camera=🇪🇸cuerto, habitación
🇪🇸cámara=🇮🇹macchina fotografica
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🇮🇹mirare=🇪🇸apuntar a
🇪🇸mirar =🇮🇹guardare
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🇮🇹servire=🇪🇸servir, necesitar, atender
🇪🇸servir =🇮🇹servire
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🇮🇹mettere=🇪🇸poner
🇪🇸meter=🇮🇹introdurre
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🇮🇹prendere=🇪🇸coger
🇪🇸prender=🇮🇹accendere
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🇮🇹sentire=🇪🇸escuchar, sentir
🇪🇸sentir=🇮🇹dispiacere, sentire
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🇮🇹spalla=🇪🇸hombro
🇪🇸espalda=🇮🇹schiena
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🇮🇹vuoto=🇪🇸vacío
🇪🇸voto=🇮🇹voto
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🇮🇹caro=🇪🇸querido
🇪🇸caro=🇮🇹costoso
などなど。
日本語の「工作」は中国語では「働く」
「湯」が「スープ」を表すような違い。
【その③】
PREFIJOS (接頭辞) の違い
プレフィッホスとは、簡単に言えば日本語の「再 (もう一度)」や「不 (否定や打ち消し)」のように、語の頭につくもの。
イタリア語では「もう一度〜する」という (日本語の「再」と同じ接頭辞) ri が高頻度で使われる。ほぼ全ての動詞につけれる。
dire (言う) → ridire (もう一度言う)
cucire (縫う) → ricucire (もう一度縫う)
scrivere (書く) → riscrivere (もう一度書く)
dipingere (描く) → ridipingere (再び描く)
telefonare (電話する) → ritelefonare (再び電話する)
studiare (勉強する) → ristudiare (もう一度勉強する)
andare (行く) → riandare (もう一度行く)
…と、キリがない。
一方で、スペイン語で re をつけれる動詞は数が限られる。
hacer (する) → rehacer (もう一度する)
leer (読む) → releer (もう一度読む)
ver (見る) → rever (再び見る)
この接頭辞の代わりに「繰り返し」を表現するには volver a + 動詞の原形、otra vez (もう一度)、動詞+de nuevo (再び) を使う。でも、イタリア人はついつい母語のように動詞に ri (re) をつけて言ってしまう。もしくは di nuovo (de nuevo) を連呼する。
逆パターン (スペイン語では多用するのにイタリア語では使われていない接頭辞) もある。それは i と in と des で、いずれも否定の意味を含む。
cuidar (気にかける) → descuidar (気にかけない)
cumplir (達成する) → incumplir (達成しない)
útil (便利な・実用的な) → inútil (不便な・用途がない)
legal (合法な) → ilegal (違法な)
スペイン語には無数にある。この違いから、イタリア人は対義語を聞かれた時、スペイン語でパッと正しく答えられない。とりあえず頭に no をつけがち。
【その④】
PRETÉRITO INDEFINIDOの1人称と3人称
点過去の1人称単数と3人称単数の活用がごちゃまぜになっている。
例: decir (言う)
dije
dijiste
dijo
dijimos
dijisteis
dijeron
dije (yo) とdijo (él,ella,ud.) が混ざって
"Ayer yo le dijo que..." と。
これは全動詞に見られる大きなミス。
❌ Ayer yo hizo una torta.
❌ La semana pasada yo fue al médico.
なんで?
イタリア語のdecir (dire) の活用を見てみると
dissi
dicesti
disse
dicemmo
diceste
dissero
スペイン語と同様、1人称単数と3人称単数は異なる活用をしている。それなのに、なぜスペイン語になるとイタリア人は正しく覚えていないのか。
…ある日ひらめいた。
『線過去&コンディシオナルとの混同だ』
スペイン語の線過去とコンディシオナルはイタリア語と違って、1人称単数と3人称単数の活用が一緒という特徴がある。
decía diría
decías dirías
decía diría
decíamos diríamos
decíais diríais
decían dirían
これが原因に違いない。
【その⑤】
似てない単語の数が想像の数倍多い
スペイン語を習ったことがないイタリア人は『イタリア語とスペイン語には似ている単語や動詞がたくさんある、しかも意味も同じ』と思っている。私もイタリアに来るまではそう思っていた。
🇪🇸(言う) decir - 🇮🇹dire
🇪🇸(読む) leer - 🇮🇹leggere
🇪🇸(見る) mirar - 🇮🇹mirare
🇪🇸(書く) escribir - 🇮🇹scrivere
🇪🇸(話す) hablar - 🇮🇹parlare
🇪🇸(買う) comprar - 🇮🇹comprare
🇪🇸(水) agua - 🇮🇹acqua
🇪🇸(家) casa - 🇮🇹casa
🇪🇸(学校) escuela - 🇮🇹scuola
🇪🇸(自分) yo - 🇮🇹io
簡単じゃん。と、
油断して生活をスタート。
すると…
🇪🇸(捨てる) tirar - 🇮🇹buttare
🇪🇸(不足する) faltar - 🇮🇹mancare
🇪🇸(食べる) comer - 🇮🇹mangiare
🇪🇸(化粧する) maquillarse - 🇮🇹truccarsi
🇪🇸(出る) salir - 🇮🇹uscire
🇪🇸(帰る) volver - 🇮🇹tornare
🇪🇸(似ている) parecer - 🇮🇹sembrare
🇪🇸(行く) ir - 🇮🇹andare
🇪🇸(切る) cortar - 🇮🇹tagliare
🇪🇸(男性) hombre - 🇮🇹uomo
🇪🇸(ゴミ箱) basura - 🇮🇹spazzatura
🇪🇸(窓) ventana - 🇮🇹finestra
🇪🇸(仲間) compañero - 🇮🇹colega
🇪🇸(日) día - 🇮🇹giorno
🇪🇸(オフィス) oficina - 🇮🇹ufficio
🇪🇸(バター) mantequilla - 🇮🇹burro
🇪🇸(バジル) albahaca - 🇮🇹basilico
🇪🇸(砂糖) azúcar - 🇮🇹zucchero
🇪🇸(光熱費) gastos - 🇮🇹spese
🇪🇸(店) tienda - 🇮🇹negozio
🇪🇸(質問) pregunta - 🇮🇹domanda
🇪🇸(まとめ) resumen - 🇮🇹riassunto
日常生活でよく使う単語ほど全く違う。
【その他】
・指示代名詞の使い方
ese, esa, esos, esas を使う場面でイタリア人は esto, esta, este, estos, estas を使う。
・TENERとHABER、SERとESTAR
🇮🇹avere =🇪🇸tener, haber
🇮🇹essere=🇪🇸ser, esta
・再帰動詞
スペイン語にはイタリア語よりはるかに多い再帰動詞が存在する。
・アクセントの位置
日本人と同様、動詞の2人称複数と3人称複数のアクセントが慣れるまで不自然。hacemos はアセモスじゃなくてアセーモス、pidieron はピディエロンじゃなく、ピディエーロンが正しい。
【最初の疑問の答え】
なんとなくわかってきた人もいるだろう。
イタリア人はスペイン語を「話せてはいる」ものの、小さなミスがかなり多い。
もし、
中国の人が日本の家電量販店で値切ろうと、
『ワタシ真実にコレ経済的に買うの希望したい』と言ったら私たち日本人は「ああ」と理解して返事ができるだろう。
イタリア人がスペイン語をスラスラ話せているのに、語学学校の上級レベルにいない理由はまさにこれ。会話はスムーズで C1(上級)レベルだとしても、文法 (動詞の使い方と時制)・作文・リスニングではミスが目立つため、A2〜B1後半のクラスによくいる。
逆に、その違いさえ理解してしまえばネイティブ同様に話せるため、イタリア人は短期間でスペイン語を習得する。
〜例え〜
スペイン人と日本人が中国語を習うとする。スペイン人はそもそも漢字の識別すら難しく時間がかかる。でも私たちは『へー中国語で「鬼」は「幽霊」のことなんだ!「読書」は「勉強」って意味か!』と分かりさえすれば、スペイン人よりかなり速いスピードで中国語を習得できる。とは言っても、やはり私たちは「読書」を見たら「読書」をイメージしてしまう。→ 二言語間にある類似点がミスや勘違いの原因にもなりうる。
【おまけ】
イタリア人とスペイン語でチャットや会話をするとたくさん通じない (別の意味にとられる) 口語表現に出くわす。例えば「楽しみな計画」について話している会話でよくあるのは…
私は「めっちゃ楽しみ!ワクワクする!」って意味で qué ilusión! と書いたのに、、、イタリア語にはこの表現がないからそのまま ilusión を『幻想・錯覚・幻覚・妄想』と直訳の意味にとらえ『いや、幻なんかじゃない、リアルなんだよ!』と返された (笑)
tengo mucha ilusión もそう。直訳は「私はたくさんの幻想を抱いている」だが、スペイン人は『めっちゃ楽しみ!』と言う意味で使う。イタリア語に直訳すると ho molta illusione。しかし、ふさわしい対訳は sono molto emozionata per 〜 や non vedo l'ora。
似てる言語ほど実は、難しい。真の『バイリンガル・トリリンガル…そのまた上』を目指すなら現地での生活、特に異文化理解が不可欠だ。
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