全口頭試験を終え、ラウレアまで残りあと一歩となった2021年2月23日(火)。今日は、カラブリア大学で単位取得をするのに最も苦労した科目TOP3をここに記録しておく。
Università della Calabria - Lingue e Culture Moderne
TOP1: FILOLOGIA E LINGUISTICA ROMANZA (ロマンス諸語言語学と文献学)
言語学を専攻している生徒の『言語知識』の高さを痛感した科目。ラテン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、イタリア語、スペイン語、カタルーニャ語を自由自在に操れるクラスメイトばかりで…たくさん刺激をもらった。
教授「フランス語で城は何ていう?…スペイン語では?…ポルトガル語では?…その流れで行くと大元のラテン語ではどうなる?そこから派生したと考えられる動詞は?その動詞を今も使うロマンス諸語は?…そう、その通り。」
というのが、日常の何気ない10秒。
授業中に教授と目が合い、
「君は第一言語でスペイン語専攻をしてるね。じゃあ、ラテン語のPAURERAMから派生したスペイン語の形容詞を言ってみて。その過程も全部説明お願いね。さ〜出来るかな!」
なんてやりとりにも慣れた。パーフェクトな答えは、
La caduta delle consonanti finali latine (tratto panromanzo)→Mantenimento della vocale finale atona -A (tratto provenzale)→Lenizione della consonante intervocalica bilabiale (sonorizzazione)→Sincope della vocale atona→Mantenimento del dittongo primario latino -AU- (tratto provenzale)→Altri esisti romanzi a confrontonto→POBRE (en español)
【3フレーズで科目紹介】
古代ローマの領土で話されていた言語を学ぶ科目。ラテン語、オイル語、オック語 (ガロ・ロマンス語)、イタリア語 (イタロ・ロマンス語)、サルディーニャ語、ロマンシュ語 (レト・ロマンス語)、カタルーニャ語、スペイン語、ポルトガル語 (イベロ・ロマンス語)、ルーマニア語 (バルカン・ロマンス語)、プロヴァンス語…。複数のロマンス諸語を言語学的かつ文献学的 (文書、本、資料から歴史的背景や文化を知る学問) に分析、比較する。
【難しかったポイント】
まず、高校までの義務教育期間でラテン語を学んだことがない日本人がこの空間に飛び込むと、周りとの『常識』の差に押しつぶされそうになる。バルセロナ大学の哲学部でラテン語には触れていたつもりだったが、言語学となると、ふりだしに戻った気分だった。授業中にした『ラテン語から派生している単語の形成練習問題』を何回も何回も完璧に出来るまで全問題、解き続けた。ラテン語の語彙体系を学ぶことで、どんなロマンス諸語でも単語を見れば意味を推測できる力が身についた。
ロマンス文献学では、中世のトルバドゥール (中世のオック語の詩人) の代表的な抒情詩を何十も取り扱った。これは、結構面白かった。楽しかった。
押韻構成、押韻の響き、翻訳、解釈よりも、音読 (発音) が難しかった。
下のYouTubeで音楽を聴きながら、頑張って平仮名を振って練習。中世のフランス語で話されていた言語に興味がある人は ⬇︎ を。
TOP2: LINGUA E LETTERATURA ROMENA (ルーマニア語とルーマニア文学)
【3フレーズで科目紹介】
ルーマニア語の筆記試験を突破するには、日常会話が出来る+文学史を少し原文でも楽しめるようになるA2レベルの取得が必須条件。筆記をクリアすると、次はルーマニア文学史の口頭試験。ルーマニア史上最高の詩人と言われるミハイ・エミネスクの詩を始めとする有名な作品をひたすら読み、時代背景と内容を照らし合わせ、テクニックも分析。
【難しかったポイント】
スペイン語訳も英語訳も、もちろん日本語訳も存在しない作品の連続で…19世紀のルーマニア語を理解するのに苦労した。幸運にもイタリア語の訳を、ところどころ教授が用意してくださっていた。コロナの影響で、最初から最後までオンライン授業で、不慣れなデジタル教材だった。今思えば、手書きよりかなり速く何百ページも訳せたからこれで良かったのかもしれない。自分が読んで分かるように、雑な直訳でどんどん読み進めた。
詩のテーマや結末は、同時期のスペインやイタリアのものとは似ておらず、独特な雰囲気を持つロマンチックな物語が多かった。エミネスクの『ルチャーファル (Luceafărul)』は、綺麗。
驚いたのは、日本語に訳されている作品の少なさ。ルーマニア語が日本人にとってマイナーな言語であることを知らなかった。ヨーロッパでは重要な言語なのに。
外国語の習得は、一番最初が難しい。初心に戻れた。…この何とも言えない気持ちを味わうのが大切。言語が身につくと、母語のように何でも理解できてしまうから、外国語を学び始めて間もない生徒さんたちの「分からない」が分からなくなる。天狗にならないように、たまに初心に帰るようにしている。…それにしても文法が複雑だった。スペイン語に比べて「論理」を感じない言語だったが、日本語に近い何かを感じた。
TOP3: LINGUA E TRADUZIONE INGLESE SECONDA LINGUA DI SPECIALIZZAZIONE (第二専門言語としての英語学と翻訳学)
【3フレーズで科目紹介】
第二言語としての英語学では、C1レベル以上の英語力と、新聞記事や雑誌や小説を難なくイタリア語⇆英語翻訳していける力が求められた。翻訳学では、14世紀から現代に至るまでの『翻訳研究』を学び、翻訳における問題点や翻訳者の在り方、100%の翻訳が存在できないこの世界で、というテーマについて追求した。中でも個人的に興味を抱いたのは、ロマン・ヤコブソン、ニーダ、ポポヴィッチが提唱した方法論。
【難しかったポイント】
翻訳を専門としている世界で、直訳は言語道断。現代において、良い翻訳者になるためには現地生活を通して得た経験を上手く言葉に乗せる必要がある。読者に翻訳であることを感じさせないこと。言葉と言葉の翻訳ではなく、文化と文化の翻訳、フレーズとフレーズの翻訳。だからイタリア語と英語の高い『知識』が求められた。…難しかった。日本人がイタリア語⇆英語翻訳をしている「ナンセンスさ」を考え始めたくらい難しかった。しかし、結果的には意味を見出せた。
分かりやすく翻訳研究の面白さを伝えると…
(例) 英語の「HELLO」には、「こんにちは」と「もしもし」、2つの意味がある。これを知らない翻訳者は「もしもし」の場面で「こんにちは」と訳してしまう。オリジナルの文書を書いた人 (作者) の意図とは異なる翻訳をしてしまっている。
【振り返って思うこと】
イタリアで、言語系の大学に進む際には、
第一外国語: C1後半-C2レベル
第二外国語: C1レベル
第三外国語: B2レベル
ないと、厳しい。学年が上がるにつれて、科目によっては、イタリア語ではなく、それぞれの言語で口頭試験を受けなければならない。教材も原文。知識以前に語力がないと、15分も20分も論じれない。
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