一時帰国の楽しみのひとつ、本。
自分へのご褒美に3冊、東野圭吾さんの小説を買うのが恒例となっている。
すぐに車の中で読み始めたいところだけど、我慢して、袋ごとスーツケースに入れる。スペインとイタリアに戻って少しずつ読む用だから。
私が特に気に入っているのは、
日本の現代社会で、身近に起こっているテーマを上手く捉え、倫理的かつ哲学的な視点から読者に物事の本質を問いかけるような『作風』である。
読みやすい文体。
テンポの良さ。
繊細な感情描写。
どんでん返し。
一度本を開くと、止まらない。
それが東野圭吾小説。
今日は、
読後に「これをオリジナルの言語 (日本語) で読めた自分はラッキーだ」と感じるほど面白かった作品TOP10を紹介する。
TOP1「変身」
テーマは『脳移植』
➡︎ 平凡な生活を送っていた青年、成瀬純一が、不慮の事故から世界で初めて脳移植の手術を受けることになる。脳移植の適合者が見つかる確率は10万分の1。
気弱で温厚で、画家を夢見ていた彼であったが、術後、だんだん「性格」「感性」「好み」が変わり始めていることに気づく。自分ではどうしようもないと分かっていながらも「自己」を失ってしまう恐怖に駆られ、移植された脳のドナーの正体を突き止める…。
➡︎ ここまで医療が進歩していながら、未だに人間の脳移植は一度も行われていない。この作品を読むと、その理由がよく分かる。と、同時に「アイデンティティ」や「自己」についても深く考えさせられる。
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価格:671円 |
TOP2「人魚の眠る家」
テーマは『脳死』
➡︎ 大切に育ててきた可愛い娘 (6歳) がプールで溺れ、意識不明になっているという連絡受け、急いで病院に駆けつけた父と母。2人に伝えられたのはあまりにも残酷な現実だった。「残念ですが…脳死です。長時間、呼吸をしなかった影響でもう二度と意識が戻ることはありません。」両親は泣き崩れながらも、「娘の一部が、誰かの中で生き続けてくれれば…」と、臓器提供に同意した。が、その翌日、最後の脳死テストを受けている最中に娘の小さな手が動いたように見え、『まだ生きているから提供はしない。』と断った。結局、人工呼吸器をつけられながら、植物状態のまま、介護を受けながら生き続けることになった娘。世間から見れば、生きていないも同然な状態なのかもしれないが、両親にとってはまだ立派に生きている…。
➡︎ この問題は今後、更に大きな社会テーマになる。目を逸らしたくなるような悲しい話。しかし、私たちはしっかりと現実に向き合っていかなければならない。生とは、死とは、倫理とは。この世界に、狂ってでも守らなければいけないものなど存在するのだろうか?安楽死を選んだ時、その命を終わらせたのは「選択」をした遺族?それとも意識不明の時点で既に命は終わっていた?
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価格:803円 |
執筆中、ふいに気づきました。自分は今、とんでもない話を書いていると。こんなものを自分が書いて良いのか?今も悩み続けています。東野圭吾 (幻冬舎広告より引用)
TOP3「赤い指」
テーマは『認知症』と『家族』
➡︎ 47歳のサラリーマン・前原昭夫は、妻と一人息子、そして自分の母親の4人で暮らしていた。ごく普通の家庭。しかし、母が認知症になってからというもの、家が安らぎを与えてくれる場とは言い難い存在になっていた。14歳の息子は気弱で臆病な反面、内弁慶。普段は部屋に引きこもり、ゲームばかりしているタイプで、たまに幼い女の子に近づこうとする行動をとることも…。
そんなある日、オフィスで仕事をしていると妻から「早く帰ってきて欲しい」と電話が入る。あまりにも切迫した様子だったので、仕事を早く切り上げ、急いで自宅に戻った。すると、庭には見慣れないビニール袋…その中には幼い少女の遺体…。
➡︎ 最後の最後にタイトルの意味が分かって「うわ…」と悲しみがこみあげてくる。どの家族が抱えていてもおかしくない問題。私はこの作品を読んで「認知症」に対する見方が180度、変わった。名作。
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価格:616円 |
TOP4「手紙」
テーマは『犯罪加害者の遺族』
➡︎ 弟と2人暮らしの剛志は、どうしても弟の「大学進学」という夢を叶えたく、お金欲しさに空き巣に入り、思いがけず「殺人犯」になってしまう。大切な人と生きていくために、奪うしかなかった命。
高校の卒業式の2日前、強盗殺人の罪で服役中の兄から、手紙が届いた。それから月に一度、手紙が届くようになるのだが、平凡な獄中生活を送る兄とは裏腹に、弟の直貴は、自分が幸せを掴もうとするたびに (大学進学、恋愛、就職など)、「強盗殺人犯の弟」というレッテルが貼られる現実に苦しんでいた。加害者家族も、罪なき罰を一生強いられる羽目になるなんて…。
➡︎ 大げさな描写やサスペンス要素はゼロ。犯罪加害者の家族に待ち受ける厳しい現実とリアルな心情を、ただただ真っ正面から描いた作品。「あなたの大切な家族が罪を犯してしまったら?」罪はいつか償えるものなのだろうか?時間は傷を癒せるのか?人の絆とは、家族愛とは、正義とは。無くなることのない社会的差別の中でどうやって生きていくか。
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価格:759円 |
TOP5「分身」
テーマは『現代医学の危険な領域』
➡︎ 札幌の大学に通っている函館市生まれの18歳の女の子・鞠子 (マリコ) は、最近、自分にそっくりな女性がテレビに出演していたと聞いた。その女性は東京の大学に通う20歳・双葉。なぜか母親からテレビ出演を頑なに許可してもらえないアマチュアバンドの歌手。
母の不自然な死。自分の存在。父の秘密。
年齢も出生地も母親も違うのに双子以上に瓜2つ…。謎に包まれた出生ルートを2人が別々に辿って行くストーリー。
➡︎ 期待通りの奥深さを持っていた。生命工学と遺伝子、人間のエゴ、生、人権、倫理、幸せ、母の愛情。
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価格:764円 |
TOP6「夜明けの街で」
テーマは『不倫』
➡︎ 奥さんも子供もいる会社員、渡部。彼はある日、バッティングセンターで偶然出会った同じ職場の派遣社員と不倫関係になる。親しくなるにつれ、15年前に彼女の秋葉にある実家で殺人事件が起こった話を聞くようになるのだが、その第一発見者も容疑者もその彼女自身であった。何を隠しているのか。
➡︎ 不倫を軸に、殺人事件が絡んでいく、面白い構成の心理小説。真実の愛とは。
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価格:748円 |
TOP7「マスカレード・ホテル」
テーマは『仕事のプライド』
➡︎ 都内で起きた容疑者もターゲットも不明の不可解な連続殺人事件。次の犯行現場が一流のホテル・コルテシア東京という暗号を解読後、若い刑事・新田がホテルマンに化けて潜入捜査を行う。彼の教育を任されたのは、女性フロントクラークの山岸尚美という、ザ・出来る女性。次から次へと怪しいお客さんたちが現れる中、2人は真相にたどり着けるのか…。
➡︎ これは単純に、先の読めない展開を楽しむサスペンス小説。分厚い (確か450ページ強あった) のに、一気に読んでしまった。続編が出来ると聞いた時は嬉しかった。発売日の翌日、買いに行き、それもあっという間に最後の1ページ。ハマった。今ではマスカレードシリーズで最も面白い第1弾と呼ばれる傑作、マスカレード・ホテル。一流ホテルマンの大変さ、裏事情も分かって面白い。
去年、2019年に映画化され、キャストを見て驚いた。『主演: 木村拓哉』頭の中に出来上がっていたイメージと完全一致。すごい。
* 私が持っているのは最初に発売された1700円の大きいサイズ (ハードカバー) の方だけど、今は800円の手のひらサイズもある。座ってゆっくり読むなら前者がおすすめ。立ち読みがしやすいのは後者。
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価格:1,760円 |
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価格:836円 |
TOP8「ダイイング・アイ」
テーマは『罪意識』と『人間の心の弱さ』
➡︎ 交通事故の加害者の無責任さをメインのテーマとした作品。仕事帰りに、背後から頭を殴打され、瀕死の重傷を負う男性。どうにか意識を取り戻し、色々なことを思い出して行くのだが、その中で1つだけ、記憶が完全になくなっている箇所があることに気づく。それは1年半前に自分が起こしてしまった死亡事故。
➡︎ 推理小説だけど、ホラー。初めて活字から「怖い」を感じた。中学生の頃に読んだから衝撃が強かったのかな。ダイイング・アイ…。もう、ぴったりのタイトル…。
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価格:733円 |
TOP9「秘密」
テーマは『愛』
➡︎ 39歳の杉田平介は、妻と11歳の娘と3人暮らしをしていた。…が、ある日、妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。2人は病院に運ばれ、妻の直子は死亡、娘は奇跡的に一命をとりとめた。しかし、それは仮死状態になった娘の身体に死んでしまった妻の魂が宿っていたのだった。最初は全くそれを信じられなかった平介だが、自分と妻しか知らないことを次々と言い当てられ、信じるしかなくなってしまった。父として娘の自立を見守るか、夫婦関係を維持するか。戸惑いながらも、周囲にはバレないように「秘密」の生活を続けて行くが...。
➡︎ 最後の数ページで、タイトルの本当の意味が分かり始め、鳥肌が止まらない。2010年にドラマ化されているため、私と同じ世代の (1995年前後に生まれた) 人は、テレビで見たことがあるかも。
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価格:803円 |
TOP10「同級生」
➡︎ 主人公の壮一は高校3年生、イケメン、モテ男、野球部のキャプテン。ある日、マネージャーの由希子が、交通事故で命を落としてしまったことを聞く。事故現場は産婦人科病院の近くの道路…自分の子供を身ごもっていたらしい…。引っかかる点は、この事故に生徒指導の女性教師が関与していたということ。元々の事故原因が自分であったことに後悔と責任を感じた壮一は、どうにか真相に迫ろうと、手かがりを探す。ところが、その女性教師が何者かに殺されてしまい、絞殺体が主人公の教室で発見される。教師を恨んでいた少年に疑いの目が向けられるも、彼には誰にも言えない秘密があった。
➡︎ 初めて読んだ東野圭吾さんの本。これをきっかけにハマることになった。だからとても印象に残っている。思春期の心の動き、多感さを見事に表現した学園ミステリーで、主人公が高校生だからこそ出来上がったストーリー。
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価格:814円 |
【終わりに】
東野圭吾小説には、いくつかの『人気シリーズ』が存在する。直木賞を受賞した「容疑者Xの献身」で有名なガリレオシリーズ、雪山シリーズ、刑事 (加賀恭一郎) シリーズなど。しかし、私は上のTOP10に挙げた作品のような、社会派問題に焦点を当てた話の方が好き。
2019年の9月に買ってきた3冊は、
・人魚の眠る家
・危険なビーナス
・ラプラスの魔女
まだ2冊、読まずにとってある。誕生日に、朝から1冊楽しむ予定。どっちにしようかな。
スペインとイタリアに全く関係がない、ただ自分の好きなモノを紹介していく新カテゴリー「私の好きな〇〇」1本目はこの辺で。
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