BARCELONANDO :)

1995年香川生まれ岡山育ち。現在ヨーロッパ生活10年目。スペインとイタリアの大学生活・旅行・言語学 (5ヶ国語)・哲学・バルセロナおすすめ情報など、幅広いジャンルの記事を執筆中。

【人間性と言語】文章や会話から人格を推定できるのか。

社交的な人とそうでない人は、同じ話し方をしない。

電車に乗っている時、自分の真後ろに座るふたりの会話を聞き、使っている単語や話し方、取り上げているテーマなどから、それぞれの人間性を描写することは出来るだろうか?一冊の本を読むだけでその著者の性格を予想することは出来るだろうか?

談話、チャット、メール、ツイート、ブログ。言葉は、その人が言おうとしていること以上のものを明らかにする。

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【外向的/内向的】
数年前、オランダの社会言語学者 Camiel Beukeboom 氏 (Vrije Universiteit AMSTERDAM: アムステルダム自由大学) は、40名のボランティアを集めてある実験を行った。様々な社会状況の写真の中から1枚を見せ、被験者たちに次のような説明をした。

声に出して「(写真の中で) 何が起こっているか」を描写してください。 

この実験から分かったことは、

・外向的な人の言葉は平然かつ抽象的
・内向的な人の言葉は明確かつ具体的

であるということ。セリフを例に比較すると次のようになる。

外向的な人『この記事は素晴らしい』
内向的な人『この記事は非常に有益だ』

【内向的な人の言葉】
内向的な人が発する言葉の特徴の一つに、『冠詞の多用』が挙げられる。スペイン語で言うと "el, la, los, las, un, una, unos, unas"。そして、慎重な性格であるがゆえ、推量表現『たぶん』『おそらく』『きっと』をよく口にする。

外向的な人『一緒にご飯へ行こう』
内向的な人『たぶんそろそろ一緒に外食しても良い頃』

【外向的な人の言葉】
外向的な人の多くは「変化に富んだ」人生を好む傾向にあり、リスクを冒す可能性も、アルコール消費率も、外出率も、内向的な人より高く、言葉には自発性が見られる。カナダのトロント大学の臨床心理学教授、Jacob Hirsh 氏と、Jordan Peterson 氏は生徒たちに「過去の経験とこれからの目標」を書かせ、点数をつけた。

点が良かったのは、外向的な性格の生徒たちで、彼らは『関係』に関連した単語を多く使っていた。

・交友関係
・家族関係
・ライバル関係
・恋愛関係
・仕事関係

研究者たちは、「社交性が高い人は社会活動におけるエクスプローラーであるから非常に論理的な結果だ」とコメントを残した。

【人間性の特性】
ただし、外向的か内向的なだけで人間性をはかることは出来ない。2010年にあるドイツの心理学チームが100人の生徒を集め、次のような実験を行った。

これから君たちには短編小説を書いてもらいたい。しかし、いきなり書けと言うのは難しいだろうから、ストーリーの起点となりうる5単語を与えよう。

・飛行機事故
・乙女
・花火
・中世
・スーパーマーケット

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のびのびとした寛大な性格の生徒は、より創造的なストーリーを。饒舌な生徒は、大げさな表現を用いながら面白いストーリーを。穏やかで優しい性格の生徒は、社会的な要素を多く含む展開を繰り広げた。

「社会的な要素を多く含んでいる」と判断したのは別のグループの生徒である。別のグループの生徒たちには「この短編小説を読み、著者の性格を描写してみてほしい」という別のお題を出していた。

【グループ別テーマ】
内向的な人たちを一部屋に集めて自由に話をさせると、話題は『問題解決』になりやすい。

・シェアメイトと喧嘩したから新しい家を探さないと…。
・最近、仕事の人間関係が上手く行っていなくて…。
・彼女と意見が合わなくなってきていて…。

話す量に焦点を当てると、こちらのグループは、自分が話す量と、相手が話す量がほぼ同じであった。

一方で、外向的な人たちのグループのテーマは対照的で、多様なトピックが取り上げられた。特に『楽しい話』が多く、話題の切り替えスピード (テンポ) も速かった。

・ジョギングが好き。
・スタインベック (アメリカの小説家) は素晴らしい。
・ハリーポッターは面白い。

話し手は相手にカジュアルな関係を求めている様子で、聞き手の表情も明るいという特徴が見られた。

【日本語の語尾】
日本語は、語尾から人格を推定しやすい言語である。

・疑問や感動を口にする時以外は、語尾を下げて話す方が、相手に冷静な印象を与えやすい。落ち着いた口調で話す人の言葉には重みを感じやすい。

・さっぱりした印象を与える。
「〇〇だと思うわぁ〜」➡︎「〇〇だと思う」
「それでさぁ〜」➡︎「それで」

・若者言葉や、くだけた言葉の語尾に何回も置くと、誠実な印象を与えにくくなる。

【知性と品性】
言葉には、その人の人間性、知性、品性が表れる。友達に頼みごとをする際に「もし良ければ」「迷惑じゃなかったら」を頭につける人と、つけない人。

「寿司が食べたい」or「お寿司が食べたい」

「やばい」or「驚いた」「美味しい」

「暇な時」or「時間がある時」

このあたりから品性や控えめな性格かどうかは分かるだろう。

知性は、知識と国語力だと思う。個人的には「正しい敬語」と「高い語彙力」を兼ね備えた人を知的だと感じる。心や気持ちの機微までもを上手く言葉に乗せられている人には、尊敬の眼差しを向けてしまう。

 

【700のブログを分析】
テキサス大学の研究チームは、700のブログのコンテンツを分析し、使用されている言葉を調べた。

著者の人格を分析した時の結果と一致することを発見した。

例えば、「愛想の良い人」「気さくな人」は、冒涜的な無礼な表現を使わない。「楽観主義者」は、心配・悲しみ・怒り・嫌悪に関する単語を使わない。

研究者たちは、特定の言葉から人間性を識別することを目標に実験を繰り返した。すると、次のような特徴があらわになってきた。

活発的な人
頻繁にポジティブな感情や社会情勢を参照する傾向

神経質な人
感情的に不安定な人、落ち込んでいる人は、「私」「僕に」「私の」というような一人称の代名詞を継続的に使う傾向 (うつ病の人、自殺を考えるほど思いやられている人の文章でも同様)

明るい人『私たちは幸せです』
神経質な人『私は楽しんでいます』

➡︎ 社交的な人は、ベクトルが己より世界へ向きやすく、主語が一人称単数「私は…」「僕は…」「私の…」ではなく、自然と「私たちって」「僕らは」「僕たちが」と、一人称複数で会話が進む。(私の頭の中では、話者と聞き手が『1-1』ではなく『1』であるイメージ。)

➡︎ 社会活動に積極的な人、社会に貢献したいと思っている人は、生活の中の注意が他者に向いているため、三人称の代名詞 (彼、彼女、彼ら) を使うパーセンテージが高い。

ツイートやブログから書き手の人間性を分析する研究はこれまでにいくつも行われており、現代では『書き言葉からその人を知ることは可能』と考えられている。有名なのは、アメリカのテキサス大学の心理学者 James W. Pennebaker (ジェームズ・W.・ペネベーカ) 氏。「統計は嘘をつかない」と、20年かけて意味論を考慮しながら構文を分析し、文章や会話から書き手/話し手の性格を知ることのできるテキスト分析ソフト (Linguistic Inquiry and Word Count: LIWC) を開発した。このソフトは、心理学界における「感情辞書」のようなもの。

「人間から生まれる全ての表現はその人自身の人間性と考え方に影響されている」

文章を分析すると言っても、名詞や動詞を見ていくのではない。文の中であまり重要性を持たない無意識的に書き手が用いる単語 (機能語: 代名詞、前置詞、助動詞、接続詞、冠詞、動詞の活用) に着目する。よく使用される単語を、予め分類された125種類のカテゴリーと、心的プロセスに関するカテゴリーに当てはめていく。

このテキスト分析プログラムは、James (ジェームズ) 氏の『表現力が豊かな文章の重要性』に対する関心から生まれたもので、自分の元へ来る患者さんたちがトラウマ体験を詳しく説明できるように、治療テクニックとして作られたのだが、今では、性格推定だけでなく、翻訳、認知症の検出、選挙運動の分析やマーケティング分野でも活用されている。インスタグラムやフェイスブックなどのSNSでは、アカウント保持者の年齢や性別、職業、興味といった特徴を推測している。

【おすすめ動画】
日本語の字幕付き ⬇︎

(もしこのジェームズ・ペネベーカの『感情辞書』と他学者の説を関連付けて比較するなら、私は、フロイトの『無意識』と、プルチックの『感情の輪』と、ウィトゲンシュタインの『感覚日記』を持ってくる。)

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【まとめ】
使用している語彙、主語、話すスピード、話す量、語尾の上がり下がり、表現、取り上げているテーマなどから、人格を推定することは可能。

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【つぶやき】敬語について。
表面上だけの薄っぺらい敬語と、心から敬意を持った敬語。何が違うのか。なぜ文法的には百点の敬語であっても「薄い」とか「偽りの敬語」と感じることがあるのか。

これは『謙虚な行動が伴う敬語』と『謙虚な行動が伴わない敬語』の違いである。言葉と行動はいつも繋がっている。もはや自分の一部である。

ここで言う『謙虚な行動』の要素は二つ。

① 気遣いと気配り
➡︎ 状況に応じた相手に対する気遣い。場の雰囲気を読む力。

② 実際に自らの労力を使って相手に奉仕する行い
➡︎ 気持ちだけでなく、実際に自分の労力を使うところがポイント。

この二つが伴わない敬語を私は「薄っぺらい」と感じる。

最近は、あらゆるサービスがオンライン化してきている。携帯会社、銀行、本屋さん、スーパーマーケット。ビジネスシーンに限らず、日常においても問い合わせメールをする場面が以前に比べ、増えてきている。

チャットを用いて、人間とリアルタイムでやりとりが出来る時代。相手とは、数通メッセージを交わすだけかもしれない。二度と会うことも、コンタクトを取ることもないかもしれない。

無論、相手にとって自分も同じ存在である。

目に見えない相手と敬語でやりとりをする。

この場合、どこに『謙虚な行動』が現れるのか。

・返信スピード
・理解するスピード
・気遣う一言
・明瞭な文章
・相手にとって有益な情報
・改行による読みやすさ

気遣いも気配りも、外に出さなければそれはただの「思い」である。

 

毎年、日本に一時帰国するたびに『日本語』に対する興味が高まっている。今年は、敬語がすごく気になっている。上に書いた「薄っぺらい敬語」と、これから少し触れる「ベール」のお話。

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敬語は時にベールのように、その人の本質を包み込む。口から出る言葉に、指先から生まれる言葉にお化粧をしているように。

日本人ならではの「慎み」や「礼儀」を表現する場面では、このベールがプラスに働いているなーと感じるが、相手の『人間性』を深く知りたい時、敬語を邪魔に感じることがある。同時に、綺麗な日本語が好きだから敬語を好んでもっと使いたいとも思う。ちょっと矛盾。

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