イタリアやスペインなど多くのヨーロッパの国ではラテン語の授業がある。いくつかの文系のコースだけで必須科目なのかと思いきや、理系でも解剖学用語 (医学) は基本的にラテン語であるため、学んでいる生徒が多い。
ラテン語とはイタリック語派 (インド・ヨーロッパ言語族の一語派) から生まれた言語で、現在のヨーロッパの言語 (イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・フランス語など) の大本。だからその言語間には似ている単語や文法がたくさんある。(ラテン語とアラビア語とゴシック文化が混ざってスペイン語とポルトガル語ができた。イタリア語は1番ラテン語と直接的な関わりがある言語。)
古代ローマ (イタリア半島のローマを中心とした地域) の公用語となり、広く普及したが、それより遥か昔から残る古〜い言語。ローマ帝国 (紀元前13世紀〜5世紀) 時代も、他の領地の人と会話をする時や、仲間とコミュニケーションをとる時は、必ずラテン語と決められていた。
それもあり、昔の医学・法学・自然科学・数学・哲学など様々な分野の書物の多くはラテン語で記されている。現在でも公文書や学術関係の書物は当時と同じ言語を用いて書かれているのだが、なぜそこまで重要な言語なのか。どうして今も子供たちはラテン語を学んでいるのだろうか。
【ヨーロッパでラテン語を学ぶ理由】
① 文化: 昔の文化・歴史を学ぶため
ラテン語は西洋の知識 (神学、歴史、法、詩、哲学、生物学、物理学、化学) の源だし、今の西洋人の常識・生き方・判断・法・師弟関係はラテン文化からきているから「現代 (の学問)」を深く学ぼうと思うのなら「ラテン語を習得」は必ず通らないといけない道。
② 語源学: 自分の言語の元を知る
ロマンス諸語を母語とする人がラテン語を学べば、自分の言語の語彙・文法・正書法・辞書学・言語学・形態論・語彙論をよく理解できるようになる。英語はスペイン語やイタリア語のようなロマンス諸語ではないが、70%の語彙 (言葉) の元はラテン語からきている。だから英語圏の人にとっても、もっと学ぶべき言語なのかもしれない。
③ 論理的な思考
ラテン語を翻訳するのは、数学の問題を解くのと同じであると言われる。なぜなら、言語学の問題を考えて解いて (翻訳して) いかなければならないから。だから論理的思考ができる人はラテン語を翻訳するときに楽。
④ 文学を読み解く
人類学に置いて重要な作品の多くはラテン語で書かれている。クラシック文学の著者 (セネカ、キケロ、カエサル) 〜 中世 (サンアグスティン、サント イシドロ、サントトマスデアキーノ、サンアンセルモ) 〜 現代 (ニュートン、デカルト、エラスムス、コペルニクス、ベーコン、トマスモーロ)
⑤ ロマンス諸語
ほとんどのヨーロッパ言語 (ロマンス諸語) はラテン語から派生した言語であるから、それがわかれば簡単に他のロマンス語を習得することができる。(ポルトガル語、イタリア語、スペイン語、ルーマニア語、フランス語)
このようにラテン語はヨーロッパ人 (特にロマンス諸語を母語とする国の人) の今の生活・学問の根源だから、過去を紐解き、現在を深く知り、未来を発展させていくための重要な鍵。
【現在も使われる語源がラテン語の単語】
・カーボン (炭素) = carbōne
・エネルギー = energia
・スクール = schola
・午前を表す a.m. = ante meridiem (正午の前)
・午後を表す p.m. = post meridiem (正午の後)
・ウイルス = virus
・データ = data
・ハーブ = herba
・ミラクル (奇跡) = mira (奇妙、不思議な)
・アンティーク = antiqua (古い)
・ピクチャー = pictura
…などたくさんある。
【ラテン語は私たちでいう古文】
「なぜ子供たちはラテン語を学ぶのか?」という質問をヨーロッパ人にするのは、外国人が日本人に「なぜ古典・古文を学ぶのか?」と聞くのと同じ。日本人も中学や高校、もしくは小学校で枕草子を音読したり、古語辞書を引きながら竹取物語を訳したり…いろんな作品を読んだもの。『古語を学んだところで実用性はないし、いつ使う知識なの…』と思いながら当時は学んだが、今になり、言語学を掘り下げていく中ですごく役立つ授業だったと気づいた。言語学をしていない人も古文の授業でやった「品詞分解」が多言語を学習する際の、品詞の理解にも繋がる。古典の魅力は素朴ながら意外な展開がある物語、語調の楽しさ・言葉遊び、先人の知恵、当時の生き方や様子を記してある点。古文独特の奥ゆかしさとゆっくり流れる時間も良いし、日本人らしさも感じれる...。だから未だに日本の学校にも古文という科目が残っている。それと全く同じ。
【ラテン語は死んだ言語?】
言語が生きているか死んでいるかを判断する基準は『話者がいるか』どうか。ラテン語は今も "話者” がいるのに「死んだ言語」と言われる。母語としている人はいないにしても最初に述べたように、ラテン語を学ぶ子供たちはヨーロッパにたくさんいるし、そうなればもちろん話せる先生もたくさんいる。それに、バチカンのローマ・カトリック教会の公用語は今でもラテン語である。
このような現状を見ると「忘れられた言語」「生き返った言語」という方が正しいのではないか、という学者も多い。
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